第4章
告白
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午前中に100m走の予選が行われる。選手は8組に分けられ、それぞれ1位の者だけが決勝戦に出場する。寛也は3組目だった。昨年の新人戦で名が売れたのだろう、歓声が聞こえた。
「ヒロ、人気があるんだ…」
ポツリと呟く杳に、クスリと笑っう潤也。
「気になる?」
意地悪な言い方だと思った。が、杳はまたそっけなく返してくる。
「別に」
口ではそう言うが、本心は気になって仕方がないのが傍で見ていても丸分かりだった。潤也は思いっきり意地悪をしてみたくなった。
「だったら、良かった」
潤也は杳の方へ身をずらし、その膝の上にある手に自分の手を重ねた。
「…?」
何事かと見返してくる杳の肩を引き寄せた。されるままになる杳は、キョトンとした目を向けていて、潤也はそのまま唇を重ねた。
驚いているのか、動かない杳をそっと抱き締めた。
そして、唇を離して、囁くように聞く。
「僕じゃ、ダメかな?」
杳はいきなりのことに答えられなくて呆然とする。それを見て、少し早まったかなと思いつつ、抱き締めていた腕を解いた。
「ごめん。びっくりさせたみたいだね」
「う…うん…」
杳はようやく状況が飲み込めたように頬を染めてうつむく。
この可愛らしさを、どうしくれようかと思った。潤也は膝の上でギュッと握られている杳の両手をまた取って、自分の両手の中へ包み込む。
「ヒロが駄目ならすぐ次って訳にはいかないかも知れないけど、知って置いてもらいたいんだよ、僕の気持ち」
「…ゴメン、潤也」
うつむいて、しかしはっきりとした声で返してきた。はっとする潤也の手から自分の手を取り戻して、顔を上げる。
見つめてくる瞳は、深い色を宿した、懐かしい瞳のままだった。その瞳が真っすぐ自分を見上げていた。