第4章
告白
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日曜日、早朝から学校がチャーターしてくれたマイクロバスに乗って、寛也は隣市にある県総合グラウンドへ向かった。それを見送って、潤也はため息をついた。
「まったく、雛なんだから」
呟いて、アパートの部屋に戻ってきた。
寛也が杳に告白して、どうやらフラれたらしいと言う噂は、既に学校中に広まっていた。
一説によると、強引に迫ろうとした寛也を殴り倒したとか、どちらが上かと言うことで揉めて喧嘩別れしたとか、妙なものばかりだった。が、潤也には寛也が杳にそう簡単に手を出せないだろうことは読めていた。それ程に大事に思っていることも知っていたから。
それと同時に、杳の寛也を見る目にも気づいていた。明かに他者に向けるものとは違う信頼の寄せ方は決定的だった。
だから、早晩この二人が恋仲になることも目に見えていた。それなのに、廊下ですれ違っても目も合わせないときた。特に寛也の方だ。何を考えているのだか。
昨晩、問い詰めようとしたら自室へ引き込まれてしまった。地区予選の前だから早く寝ると言い訳をつけて、とうとう出てこなかった。そのくせ、朝は朝で寝不足気味のようだった。取り敢えず、倒れられても困るので食べさせるだけは食べさせたのだが、あれでちゃんと走れるのかどうか心配だった。
「仕方ない。一肌脱ぐか」
別に寛也が失恋しようがどうしようが、一向に構わなかった。きっとすぐに元気を取り戻すことだろうから。根が前向きにできているので、食べて身体を動かせばそれなりに回復するだろう。
それよりも、杳の方だ。また人付き合いが悪くなっているように思えるのが気になった。内に引きこもりがちになっているのだろとう思った。
それならば何故寛也の告白を断ったりしたのか、合点がいかなかった。
以前、杳は寛也ともうしばらく今のままでいたいと言ったことがあった。その言葉の裏には、時期が来たら寛也を受け容れるつもりがあると言うことだったのではないだろう。
とすると、まだその時期ではないと言うことなのだろう。
潤也は取り敢えず、今日の大会に杳を誘おうと考えた。
* * *
「オレ、行きたくない」
玄関口でそっけなく言われた。
「何で? 見に行くだけだよ。応援なんてしなくていいからさ」
これは本心。
「行きたいなら潤也一人で行けばいいじゃない」
そのままドアを閉めようとする杳。それを慌てて引き留める。
「じゃあさ、僕とデートしようよ」
「はあ?」
「お弁当も持って来たんだ。君の分もあるよ」
言って、手にしていた紙袋を見せた。一人分には随分多い。食の細い杳の分を含めても、かなり多い。
「スポーツ観戦しながら、一緒に食べよう」
「…ったく、しょうがないんだから」
言いながら、杳は苦笑を浮かべた。
意外とあっさり了承が得られて、潤也は多少拍子抜けした。もしかしたら、少しくらい強引な方が杳には良いのではないかと気づくが、寛也には教えないでおこうと思った潤也だった。
* * *