第4章
告白
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寛也は家に帰ると、玄関に靴がひとつ多いのを見つけた。
日も暮れたというのに、誰が来ているのだろうかと首を傾げながら、玄関からの続きになっているキッチンへ顔を出した。
「お帰り」
夕飯を作っていたらしい潤也が声をかけてきた。
「誰か来てるのか?」
「うん、杳が…」
その名に、ドキリとする。放課後、そっけない態度をしてしまい、未だ気まずい思いを抱えていた。
「また宿題、見てくれって?」
それでも平静な振りをすることはできた。その寛也に、コンロの火を止めて潤也が振り返る。
「違うんだよ…ちょっとね…」
弟の顔付きが険しくなるのを見て、寛也はまた何かあったらしいことを知る。
「3年の悪ガキ達にね、乱暴されかけた」
「なっ!?」
思わず手にしていた鞄を取り落としてしまった。
その音の大きさに、潤也は人差し指を立てて口に当てる。静かにしろとの合図だか、そんなものは目に入らなかった。
慌てて奥の部屋に行こうとするのを、潤也に押し止どめられた。
「今、眠ってるから、騒がないでよ。杳は無事だから」
無事の言葉に、寛也は何とか思い止どまった。
「でも、何だって…」
寛也は椅子に座って、大きく息をつく。
「相手にはちゃんとお仕置きしておいたから、心配しないで。多分、半月くらいは立ち直れないくらい脅えていると思うよ」
潤也は平然とした顔で言う。何をやったのかと問う必要もないだろう。多分、これが翔だったら、相手の3年生は良くて病院送り、悪くすれば港に沈んでいたことだろうことは想像がついた。
「杳、最近、キレイになったよね?」
「は?」
いきなりとんでもない方向に話が飛んでしまい、寛也は眉をしかめる。その寛也に薄く笑ってみせる潤也。
「目立つんだよ、ものすごく。勾玉の影響なのか何なのか分からないけど、やたらと人の目を引き付けていると思う。善きにつけ悪しきにつけ」
「その所為で変な奴に狙われるってのか?」
「今日のは明かにそうだと思えるけど」
現場に居合わせた訳ではないので、寛也には何とも言えないが、断言する潤也の目は、きっと間違いはないのだろうと思う。
「あのね、ヒロ。杳が襲われたのは、自転車置き場なんだよ」
寛也は顔を上げる。それは、今までなら寛也が送って行っていた場所である。あんなことがなければ、今日もまた寛也が一緒にいた筈だった。
「たまたま他に人気がなくてね。僕は変な物音を聞いたから、うちのクラスの荒れた連中がまた何かしでかしたかと思って行ってみたんだけど」
潤也が聞いたのは、自転車が将棋倒しになって倒れた音だった。吹奏楽部の練習音に紛れて聞こえてきたわずかな音である。覚醒していなければ、多分聞こえていなかった。