第4章
告白
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「カレシ、募集中かと思ってな。俺、立候補。って言うか、即やらせてくんない?」

 ニヤニヤしながら近づくのを、杳は容赦なく足で蹴り倒す。二度目なのに、これまた油断していたらしい。相手はあっさりと後方へ引っ繰り返った。脇にいた二人は、それを左右に避けた。その間に飛び込んで、杳は倒れた相手を踏み付けながら、元来た道を今度は出口に向かって駆け出そうとした。

 と、その足を掴まれた。

「逃がすかよ」

 見ると、つい今蹴飛ばした男子生徒が、杳の足をつかんでいて、思いっきり引かれた。

「わっ」

 杳はそのまま地面に転がって、すぐさまその上にのしかかられた。

「何するっ、どけよっ」

 相手の顔を張ろうとした腕を掴まれ、地面に押さえ付けられた。仰向けにされ、身動きできないように押さえ付けられた格好は屈辱的だった。

「ケツザキには可愛がってもらったんだよな? 寂しいだろ? 俺が慰めてやろうってんだ。大人しくしろよ」
「ふざけるなっ、このヘンタイッ」

 杳は身をよじって何とか逃れようとするが、ウエイトの差が大きく、びくともしなかった。

 と、ゾワリと首筋に寒気を感じた。杳の上にのしかかっていた男子生徒の手が、首を撫でていた。そしてゆっくりと、襟元のボタンを外していく。

「やめ…っ」

 大声を出そうとして、先に唇を塞がれた。ビクリと、全身が震える。

 ――嫌だっ。

 相手の手が自分の身体に触れてくる度に、そこから力が抜けて行くような気がした。その代わりに広がっていく恐怖。震え出す身体。

 相手はそんな杳におかまいなしで、まどろっこしそうにボタンを外していく。

 首筋を伝う舌の感触に、全身が泡立った。

「やだ…やめて…」

 先程までの勢いとは打って変わった口調に、相手は面白そうに杳を見下ろす。

「そんな顔して、いつも媚びてんのか? たいていの奴はイチコロだよな」

 言って、杳のあごをつかんで口付ける。噛み付くように強く吸い上げていく。

 抵抗しない杳に、柔順になったと判断したのか、押さえ付けていた杳の上から降りて、杳を抱き起こした。

「人の来ない所、行こうぜ。存分に可愛がってやるから」

 杳は強く首を振る。嫌がるのを無視して抱き上げられようとした時、杳の身体は地面に取り落とされた。

「!?」

 見ると、相手は何が起きたのか分からないように、自分の両手を見つめていた。肘から先が、だらりと垂れ下がる。

「何だ…どうなって…」

 他の二人も、何もないのに、その場にひっくり返った。足が立たなくなってしまったようだった。

「なに…?」

 三人の様子の変化に、杳は後ずさる。とにかく、よく分からないが逃げるなら今のうちだと思った。

 震える身体を堪えて、近くにあった自転車のひとつに掴まって立ち上がる。こんな身体ではバイクには乗れない。そう思って振り向いたところで、何かにぶつかった。

 びっくりしてよろける身体を、伸ばされた腕に支えられた。

「大丈夫?」

 聞き覚えのある声に、顔を上げる。そこに、見知った顔を見出して。

「…潤也…」

 一気に、全身の緊張感が解けた。そのまま、気が遠くなっていった。


   * * *



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