第4章
告白
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自転車置き場には、人気はなかった。
この時間、帰宅するべき生徒は既に帰宅し、残る生徒はまだ学校祭の作業中である。この時間の一瞬だけ、この辺りの人気がなくなるのだ。大きなバイクなので、自転車とかち合うと煩わしいこともあって、杳は誰もいないことに少しホッとする。
校則ではバイク通学は禁止されていた。当然、免許が取れる年齢になるまで杳は表向きバス通学になっていた。それでも公然と乗ってきていたのだが。2月に免許を取ってからは、色々と言い訳をつけて学校側にバイク通学を認めてもらった。
最大の理由は、杳が自転車に乗れないことだったのだが。何をどうしたものか、これだけは苦手だった。幸いにも中学校は自宅から歩いて10分とかからない場所にあったため自転車は必要なかったが、高校はそうもいかなかった。
昨年1年間は何とかやり過ごし、現在は学内で唯一のバイク通学者だった。
「おやおや、校則違反の可愛子ちゃんが、寂しくひとりっきりのようだ」
ふと聞こえてきた不遜な声に、杳は視線だけ向ける。そこに、出口を塞ぐようにして立つ3人の男子生徒達がいた。見覚えはなかった。なので、無視してバイクの点検をする。
「いつものお見送りのカレシとは別れたんだってなー」
声が近づいてくるのを察知して、杳は点検をやめて鞄をバイクに詰め込んだ。
1年に入学したての頃は、よく上級生に声をかけられた。大半が男子だった。何が気に入らないのかよく分からなかったが、色々と難癖をつけて引っ張って行こうとするので、片端から殴り飛ばした。
瞬発力には自信はあったし、1000cc以上のバイクを乗り回して――大型二輪は無免許だが――いると、それだけの腕力もついていた。それこそ、宜しくない服装の連中も、一人ずつお相手させてもらったので、それ以降はほとんど見かけることもなかった。
学年が変わってからはプツリと途絶えていた。それが4月中登校拒否だったことと、5月に入って例のことがあって欠席していたのと、更に病欠が続いたこと、その後は寛也が放課後はここまで一緒についてくることが日課になっていたのが理由だったのだと、今更気づいた。
バイクのスタンドを上げようとして、肩に手を置かれた。
「なぁちょっと、付き合ってくれよ、杳ちゃん」
馴れ馴れしくそう言って顔を近づけてくる相手の頬を、パシリと張った。いきなり手を出してくるとは思っていなかった相手は、少しよろけて、その先にあった自転車に手をつき、力任せに降り倒した。
ガラガラと音を立てて将棋倒しになっていく幾台もの自転車。辺り一帯に響く音。
「このやろー」
残るの二人が杳の腕をつかむのを素早く払って、杳は後方へ身を引いた。そのまま、逃げ出す。反射的に追いかけてくる二人。
駐輪場の通路を逃げたが、すぐに行き止まった。
「ざーんねん。行き止まりだぁな」
最初の男子生徒が、頬をさすりながら近づいてきた。
「キレイな顔して、やることは手荒いな」
上背は杳の方がある。が、自分には今は筋肉が削げ落ちているので、多分、力では適わないだろうと踏んだ。ましてや相手は3人。逃げる方法を探す方が利口だと判断した。
「何の用?」
杳は相手を睨みすえて聞く。