第4章
告白
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バイクを置いている自転車置き場に向かうつもりだったのに、足が向いたのはグラウンドだった。今は、週末に県大会のある陸上部だけが、グラウンドを使っていた。
いつも探すのは寛也の姿だった。
背の高い寛也はよく目立つので、遠目にも見つけやすかった。それなのに、今日はそこに求める姿は見えなかった。欠席なのだろうか、まだ来てないだけなのだろうか。
しばらく待って、もう帰ろうかと考えているところに、背後から声をかけられた。
「何してんだ?」
びっくりして振り返ったそこに、寛也が立っていた。これから練習なのだろうか、スポーツバッグを抱えていた。
「別に。ヒロ、今から練習?」
「ああ」
答えて、寛也はそのまま背を向けた。
「用がないなら、早く帰れ」
「あの…ヒロ…」
駆けて行こうとする背に、あわてて声をかけると、一瞬だけ立ち止まる。
「悪ィけど、急いでるから」
それだけ言って、駆け出した。もう、止める間もなかった。引き留めても、何と言えば良いのか分からなかったのだが。
あの時、杳は、寛也の気持ちの応えるつもりだった。寛也への気持ちは、多分、自分の方が強いのだと思っていた。だから、告白されて嬉しかったし、自分も好きだと答えたかった。それなのに。
答えようと思った時、ひどく恐怖する気持ちに襲われた。
思いが通じれば、きっと、もっと好きになる。逃げ出せないくらいの深みにはまるのは自分でも分かっていた。それが怖かった。
逃げられない場所で傷ついて、うずくまったまま、震えるしかない自分。そんな姿が心の隅をかすめた。
何故こんなことを思うのか分からなかったが、その恐怖は今も自分の中にある。
人に近づかなければ、逃げることもできる。ずっとずっと、そう心の底で思ってきた。生まれた時から。それ以前から。
あの、はるか昔に死んでしまった少女の中にもあった思い。
多分、自分は何度生まれ変わったとしても、人を好きになることはできないのだろう。
杳はグラウンドに背を向ける。
これで良かったのだと、自分に言い聞かせて。
それなのに、胸の奥が切ないくらいに、痛かった。
* * *