第4章
告白
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10月中旬には学校祭があった。
9月の新学期が始まると、次第に学校全体が動き始める。実行委員会は夏休み直前に組織され、既に活動を開始していたが、各クラスが実際に準備を始めるのは9月も終盤に入ってからだった。
学校祭の日程は、全部で3日間。1日目2日目は文化祭が、3日目の日曜日には体育祭が開催される。
全学年10クラスを縦割りにして、クラス名のブロックに分ける。その上で、ブロックごとの競技を行い、順位を決めていく。競技とされるのは、文化祭での劇、体育祭での特定応援競技――グループデモンストレーション、通称グルデモ――、巨大な立て看板――デコレーション、通称デコ――、一般応援合戦、そして体育祭での運動競技である。これらをPTAが得点をつけたり、競技したりする。
そして、全種目合計での総合優勝を競うと言うのがルールだった。
各ブロック内では、それぞれ分担を劇、グルデモ、デコの3チームに分ける。が、その中でも大概にして役割に手を挙げず、はみ出している者がいた。
「俺、大会があるから」
寛也は手伝えと詰め寄るクラスメイトにそう言って、教室を飛び出した。
去年もそうだったが、この時期に重ねるのはやめて欲しかった。大会が終われば、学校祭の方に力を入れられるのだが。
教科書までも詰め込んだスポーツバッグを抱えて飛び出した教室の前で、寛也は危うく人とぶつかりかけた。寸でのところでそれを避けて。
「悪ィ」
そう声をかけてから、相手が翔だと気づいた。こんなところに、クラスの違う翔が何故いるのかと思って、すぐに杳のことかと思い至る。
翔は寛也に憮然とした表情を向けている。
「話があるんですけど、いいですか?」
「あー、また後でな。俺、急いでるから」
そう言って駆け出そうとする目の前、何かが頭上から降ってきた。見ると、コンクリートの床に突き刺さっているカッターナイフが寛也の足元にあった。
上の階で、「消えた、消えた」と騒いでいる声が耳に入った。
寛也は翔を振り向きざまにジロリと睨んだ。が、翔の方も睨んでいた。
「時間は取らせません」
寛也は舌打ちする。
翔の話は知れていた。間違いなく、杳のことだろう。
杳とはあの放課後以来、顔を会わせていない。寛也自身、顔を見るのが辛かったし、杳の方も姿を現すことはなかった。落ち着けばまた元のように戻れると思う一方で、もう駄目なのではないかとの絶望感もあった。
それなのに、自分のこの思いは冷めることはなく、むしろ会わない間にどんどんつのっていくようだった。だからこそ、却って拒絶してしまうのだ。杳に近づけば、何かしてしまいそうで。杳が怖がるようなことを、知らずにしてしまうのではないかと思って。
* * *