第4章
告白
-1-
11/13
「遅いよ。もう放って帰ろうかと思った」
超特急で着替えて部室を飛び出した途端、そう声をかけられた。見ると杳が部室の前で待っていた。
ギョッとして後ずさる寛也は、色々と、心の準備がまだだった。
「おー、杳ちゃん先輩だー」
「やっぱ、すげー可愛いー」
通りすがりに聞こえた後輩達のひそひそ声。寛也が睨むと、逆に喜びながら駆けていった。
「あいつらぁ」
しかし言われた杳は一向に気にした様子もなかった。と言うよりも、自分のことだとは思っていないようだった。
「ヒロ、ホントに足だけは、速いんだね」
いまいち引っ掛かる言い方ではあるが、本人に悪気は全くないのだと、その表情から読み取れる。杳なりに、褒めているらしいのはすぐに分かった。
「取り柄は他にも多いけど、これは一番の自慢だな」
「よく言うよ」
屈託なく笑う。他の者には、多分見せることはない表情。自分だけの――。
「あのさ、今度の日曜日、県の総合グラウンドで大会、あるんだ。見に来ないか?」
「いずみ町の?」
ここからではかなり交通の便が悪い。杳は露骨に嫌そうな顔を見せる。
「バイクならひとっ走りだろ?」
「そりゃそうだけど」
市内からだと一山越えた更に先だ。しかし、杳の家からだと街へ向かうのも苦ではない筈だし、嫌がる距離ではない。
渋っているのは、多分、ポーズ。寛也はそう思って、もう一押しする。
「お前が応援に来てくれたら、オレ、一位が取れそうな気がする」
「何それ」
「何かさ、底力って言うか、いつも以上のものを出せるんだよ、お前が側にいると」
「それ、実力じゃないじゃん」
そっけなくかわされた言葉に、ため息をついてしまう。
やっぱりストレートに言った方がいいのかと言葉を捜していると、先に杳が振り返る。