第3章
魔手
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「あ…いや……そうだ。お前が元気になったら、修学旅行、一緒に行かねぇか?」
「え?」
「と言っても、同じ行程を行くだけで、クラスメイトはいねぇけどな」

 寛也の言葉に、杳は大きく目を見開いて、それから、ふわりと笑った。

「ヒロが連れて行ってくれるの?」
「嫌か?」
「んー、ちょっとねぇ」

 思わせ振りに言う杳だったが、その表情は嬉しそうにしか見えなかった。

 実際、修学旅行の醍醐味は、行く場所よりも旅館での宿泊にあるのだと寛也は思っていた。夜、同級生達と騒いだり話したりするのが一番楽しいのだ。それが苦手そうな杳だからこそ、本当は本物の修学旅行に行かせてやりたかったのだが。

「仕方ないか。ヒロで我慢しておくよ」
「お前なぁ。絶対、それ、可愛くねぇぞ」
「可愛くなくて結構」

 言って、プイッとそっぽを向く。こんな態度が取れるようになったのも、かなり元気になった証拠だと寛也は思った。

「でも、そうなったら早く良くならねぇとな。冬休みになっちまうぞ」

 寛也の言葉に杳は振り返る。

「だったらスキーでもいいよね。湯治に温泉とかでも」
「それ、修学旅行の行程と違うだろ」

 苦笑する寛也に、杳は思いがけない答えを返してきた。

「いいんだよ、どこでも。ヒロがいるなら」

 思わず、返す言葉に詰まってしまった。自分を見上げてくる杳の瞳を見つめてしまって。まずいことに、心臓が早打ちしてきた。

 固まってしまった寛也に、杳は不安そうに首を傾げる。

「ヒロはオレと一緒じゃ、イヤ?」

 こんな言葉を杳の口から聞けるとは思っていなかった。嫌などころか、ものすごく嬉しかった。二人っきりの旅行とか、二人っきりの温泉とか。

 温泉? いや待て、そこまで一気に行ってしまったらさすがにまずいだろう。だけど、杳が良いと言うなら、拒む理由は寛也には全くないし、と言うか、是非是非お願いしたいと言うか、できればこの際、竜体ごとひっくるめてやってしまいたいかなとも思ってしまう、健全な17歳高校2年生男子の寛也だった。


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