第3章
魔手
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「ヒロは当然行くよね? お土産、期待してるから。サルボボはいらないけど」
「何だよ、それ」
「知らないの? 真っ赤なおサルだよ。ヒロにそっくりなんだから」
「はあ?」
いぶかしがる寛也に、杳は笑い出す。その笑い声に、本当に元気になったのだとしみじみ思う。
それでも。
「根本的な解決にはなっていないんですけどね」
ふて腐れて言った翔の言葉を思い出す。
杳自身の失われていく生命力は、今も変わらず減り続けているし、激しい運動も、もうできないのではないかと言う。
「俺の生命力を送り続けてもダメなのか?」
言うと、翔はものすごい目で睨んできた。それが何を意味するのか知ったうえで言っているのだから、尚更である。しかし潤也の話によると、自分も既に何度も試してみようとしたのだから、寛也のことをとやかく言える筋合いではないのだが、寛也は敢えてそのことを口にするのは控えた。
「ダメじゃないですけどね。延命くらいにはなりますが、その代わり、結崎さん自身の生命力が減りますよ」
「んなの、すぐ回復するって」
寛也の現在の年齢もそうだが、竜としての末子である炎竜はまだ成長期にあたる。生命力が満ち溢れているのが、翔の目にははっきり見て取れた。
「それからっ。加減を誤ると、かえって杳兄さんの命の危険もありますから、できたら二度と止めて欲しいんですけど」
それが理由じゃないだろうと、突っ込むのもやめた。その代わり、言うべきことは言う。
「杳がまた苦しがったら、俺、するぜ。あんな姿、もう見たくねぇ」
腕の中で身体を丸めて苦しんでいる杳に、どうしようもできなくて、ただただ抱き締めていた。もう、あんな思いは嫌だし、杳に辛い思いをさせたくもなかった。
そう言う寛也を睨む翔は、怒りの表情のまま言う。
「今度杳兄さんを傷つけたら、消滅させるよ、戦」
ぞっとしないことを口走って、翔は背を向けた。
「杳兄さんには生命の交感が何をさすのか黙っておいてあげます。でも余り図に乗っているようなら、バラしますから」
そうなったらどうなるか考えて、寛也は先程の翔の言葉よりもこっちの方が怖いと思ってしまった。即、何度もうなずいた。
実際のところ、前回のことで杳はかなり回復した様子なので、当分は必要ないだろうなと考えて、不謹慎ながらも寛也はつまらなく思っている自分に気づく。
「なに?」
杳の顔をじっと見つめたままそんなことを思い出していて、不審な目を向けられた。