第3章
魔手
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「えーっ、いきなり夏休み?」
「ん、明日から。今日学校へ行ったら、終業式だって言って」
普段ならまだ授業中であるのに、昼前に見舞いにやってきて寛也はそう報告した。終業式だけだったので、早く学校が終わったのだ。
杳が倒れてから3日、今ではすっかり元気になっていた。
やはり例の行為の効果なのだろうか。潤也の言うところの交尾かどうかは本当のところ自覚もないし、良く分からないが、多分、寛也が杳に送った力は生命の交感と言うくらいだから、生命力そのものだったのではないだろうか。その証拠に、あの日の自分はかなり疲れ果ててしまっていた。翌日はピンピンに元気になっていて、まさにそんな感じだと思ってしまって、寛也は慌てて首を振る。
「2学期の始まりは盆明けの18日。5月に学校閉鎖になってた分も含んでるらしいぜ。それと、期末考査が25日から」
言いながら、寛也は杳に日程表を渡した。と、一瞬指先が触れて、寛也は慌てて飛び上がった。
「うわああっ」
寛也の様子に杳はキョトンとする。
「いや、何でも…ないんだけど…」
一人で慌てて自分で言い訳をするのは、ひどく間抜けに思えた。そんな寛也から目を逸らして、杳は渡されたプリントに目を落とす。
「あ。修学旅行」
本来の夏休みに入ってすぐの日に行くことになっている。行き先は信州だった。
「ヒロのクラス、A日程だよね?」
学年人数の関係で、鉄道会社から一斉の乗車は勘弁して欲しいと頼まれているらしい。その為、2班に分かれて日にちをずらして行くことになっていた。分割方法はくじ引きだったが、寛也のクラスも杳のクラスも同じ日程の筈だった。
「行けそうか?」
じっとプリントを見ている杳に聞いてみると、意外にも明るい声が返ってきた。
「行くとみんなに迷惑かけそうだから、キャンセルした」
「そっか…」
そうなるだろうとは幾らか予想はできていたのだが、はっきり聞かされるとやはり残念だと思った。修学旅行は高校生活の中でも、最大の思い出になるだろうから。