第3章
魔手
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 立ち上がる翔。その姿を見上げて、寛也は尻餅をついたまま、後ずさる。

「やったかどーかって言ったら、やってねぇよ。やりてぇけど」

 プツンと、何が切れた音が聞こえたような気がした。

「ばか…」

 呟いて、仕方なく潤也は瞬時に結界を張り巡らした。

 ちょっとした核爆発のようなものが、人知れず談話室の中で起こった。その爆風が収まってから結界を解いて、伸びている寛也に、潤也は小さな声で言う。

「ここだけの話だけどね、翔くん、いろいろ試したみたいだよ。でも、ことごとく拒絶されたらしいんだ。勾玉に。でもヒロは一発OKだったんだね」

 そんなものは何の慰めにもならない。寛也は自己嫌悪と失意に暮れていた。それを眺めやって、潤也は翔に言う。

「ま、このくらいにしておいてあげなよ。知らなかったんだし」
「分かってますよっ」

 そうは言うものの、翔の目は本気で殺気立っていた。要らないことを言う潤也すらも腹立たしげに睨んでいた。

 そんな翔をくすりと笑ってから、潤也は寛也に真剣な目を向ける。

「あ、ヒロ。ついでに教えておくけど、僕達は、男の子相手でも子孫ができてしまうから、気を付けておいてよ」
「はぁあ?」

 寛也はそう言った潤也を化け物でも見るような目で見上げた。わざと意地悪そうに笑って見せる潤也。その彼の言葉の真偽はとても計りかねた。

 どちらにしても、迂闊なことをしたら、命がないものと、本気で思ってしまった寛也だった。





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