第3章
魔手
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「随分と長居してたね」

 病室を出てエレベータへ向かう途中、談話室の前を通りかかった時、そう声をかけられた。

 見ると、潤也と、膨れっ面をした翔がそこにいた。

「何だ、お前らここにいたのか?」

 だったら病室に入って来れば良いものをと言いかけて、止めた。入ってこられなくて良かったのだから。

 寛也は談話室に他に誰もいないことを見て、潤也の隣に腰掛ける。

「杳の母さんにもらったんだけど、食うか?」

 言って、クッキーの缶を開けた。奇麗に並んだクッキーは、どれも甘そうだった。寛也はそれをひとつ摘まんで口の中へ放りこむ。

「ん、んまい。何か、腹減っちまってー」

 言ってパクパク食べ出した。寛也にとってはいつもの間食の時間もとうに過ぎているだろうから、腹が減っても当然だった。

「呑気に食べてる場合じゃないだろうに」

 ボソリと言う潤也に、寛也はクッキーを飲み込んでから、はっきりとした口調で返した。

「死なせねぇよ、杳は」

 そして、また食べる。その寛也の横顔を無言でじっと見ていた翔が、眉の根を寄せた。

「結崎さん、病室で何してたんですか?」

 途端、寛也はクッキーの粉を気管と喉に詰まらせた。慌てて差し出す潤也の缶コーヒーをぐい飲みする。その慌てっぷりを翔は睨んだままだった。

「何って…別に…杳、寝てたし…いや、寝てたからした訳じゃなくて…違う、起きたからちょっと…したって言うか、してないって言うか…」
「もういいよ、ヒロ」

 何を言っているのか分からない寛也に、何かしでかしたらしいことを察知した潤也は、ため息混じりに言う。その潤也の言葉を無にするように、翔の口をついて出た言葉。

「生命の交感…」
「え?」

 聞いたことのない言葉に、聞き返す寛也の横で、潤也が身を引いた。その上で、寛也をジロリと見やってくる。

「な…何だ、それ」


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