第3章
魔手
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「ごめんなさいねー。うっかり保健証を忘れて来ちゃって、取りに帰ってたんだけど」

 一時間近く後に病室に帰って来た杳の母親は、全然済まなさそうではなく、寛也にそう言った。

「いえ…」

 その一方で、しどろもどろの寛也。まさかその間に、杳にこっそりキスをしていたなんて思い出して、一人赤面する。

「さっきより顔色良さそうね」

 杳の顔を覗き込んで、呑気に言う。確かに薬が効いてきたのかも知れない。

「あの、俺、そろそろ…」

 寛也は立ち上がって帰ろうとする。

「あらそう? 悪かったわね、二人っきりにしちゃって。杳、起きた?」
「…え?」

 微妙にひっかかる彼女の言葉の真意を読みかねて振り向くと、またあの笑顔があった。もしかしてこの母親は何か感づいているのではないかと疑ってしまうくらいに。

「少し起きて、また寝てしまいましたけど」

 言いながらも、顔が熱くなる寛也。早いところ、退散したいと思った。

 寛也はお礼にともらったクッキーの缶を持って、あいさつもそこそこに病室を後にした。


   * * *



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