第3章
魔手
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と、寛也の手に、そっと杳の手が触れてきた。白くなって、細くなった指先が寛也の拳を解いていく。
「なに湿った顔してんの? バカみたい」
「バカはねぇだろっ」
言って寛也はその手を握り締めた。それは、ひんやりと冷たいままで、握り返してくる手の力も、弱いものだった。
「ヒロの手、ぬくいね」
ふと、このくらいなら自分にもしてやれると寛也は気づいて、杳の手を両手で包み込んだ。
「温めてやるよ」
炎は燃え盛る火ばかりではない。力の強さを調節すれば、人に心地よい温度に持っていける。
寛也は手の中でゆっくり熱を作り、杳の手に伝える。
手のひらだけではなく、きっと体温自体が下がっているのだろう。だったら――。
寛也は自分の体温ごと、手のひらに力を集めていく。
手のひらを伝って送り出すのが一番効果があると、潤也から癒しの術を教わった時に聞いた。結局、炎竜にはその力はないのだと、散々訓練して潤也にサジを投げられたものであったが。他の竜達には多かれ少なかれある術が、どこをどうたたき出しても炎竜にだけは備わっていないのだと呆れられながら。
それは、奈良で杳を助けてあげられなかった一件の直後のことだった。
自分には身体の傷を癒してやる力はないが、自分の中の力で少しでも杳を喜ばせてあげられることがあるのだとしたら、それが何であっても与えてやりたかった。
杳の為だったら、この力のすべてを使い果たしても、多分、悔いはないと思った。
「温かくて、気持ちいい…」
「そうか?」
次第に、寛也の手を握る杳の手の力が抜けていく。まだ薬が効いているのか、すぐにうとうとしかける。
そのまま寛也は力を増していく。