第3章
魔手
-3-

5/11


 はっとして振り返ると、いつの間にか杳が目を開けていた。寛也は慌ててベッドサイドに駆け寄った。

「具合はどうだ?」

 目は開けているが、顔色は最悪だった。それなのに、返してきた言葉。

「うん、平気」

 言って、笑顔を作る。

「お前の”平気”はアテにならねぇな…」
「それ、前にも言われた」

 そうだったかなと、思い出す。本当に杳は無茶ばかりする。もっと自分を大切にすればいいのにと、いつも思うばかりだった。

「ヒロ、やっぱり助けに来てくれた…」

 ふと呟かれた言葉にはっとする。

「来てくれると思ってた」

 柔らかく笑みをこぼす杳に、胸の奥が熱くなる。

 あの場に行ったのは、何となく心配になったのと、結界でも張っておいた方が良いとたまたま思い直したためだ。

 たったそれだけだった。

「ありがと」

 素直な言葉がかけられる。ほんの少し前、助けたとしてもこの一言が聞けなくて、減らず口ばかりで何度も可愛くないと思ったものなのに、今ではこう言われることの方が辛かった。

「そう言えば、ヒロ、学校は?」
「こんな時に変なこと、気にするんだな。どーでもいいだろ?」

 苦笑しながら、近くにあった丸椅子を引き寄せて、ベッドの脇に腰掛ける。その寛也に意外な言葉を吐く杳。

「でもオレ、最近、学校行くの、楽しいけど?」

 何故と聞く寛也に、杳は笑っていて。

「ヒロ、いるだろ?」

 サラリと放たれた言葉に、寛也は真実を知る。

 体調が悪くてもずっと杳が学校に通っていた理由――ただ、寛也に会いたかっただけ。

 それだけ。

 もしかしたら、自分の身体のことを薄々気づいていたのかも知れない。だからこそ、尚更――。

「そうだな、俺も…」

 言いかけて、うつむく。胸に込み上げてくるものを抑えきれなくて、膝の上に乗せた拳に力を入れる。

 何故分からなかったのかと思う。こんなにも寄せられていた想いに。


<< 目次 >>