第3章
魔手
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はっとして振り返ると、いつの間にか杳が目を開けていた。寛也は慌ててベッドサイドに駆け寄った。
「具合はどうだ?」
目は開けているが、顔色は最悪だった。それなのに、返してきた言葉。
「うん、平気」
言って、笑顔を作る。
「お前の”平気”はアテにならねぇな…」
「それ、前にも言われた」
そうだったかなと、思い出す。本当に杳は無茶ばかりする。もっと自分を大切にすればいいのにと、いつも思うばかりだった。
「ヒロ、やっぱり助けに来てくれた…」
ふと呟かれた言葉にはっとする。
「来てくれると思ってた」
柔らかく笑みをこぼす杳に、胸の奥が熱くなる。
あの場に行ったのは、何となく心配になったのと、結界でも張っておいた方が良いとたまたま思い直したためだ。
たったそれだけだった。
「ありがと」
素直な言葉がかけられる。ほんの少し前、助けたとしてもこの一言が聞けなくて、減らず口ばかりで何度も可愛くないと思ったものなのに、今ではこう言われることの方が辛かった。
「そう言えば、ヒロ、学校は?」
「こんな時に変なこと、気にするんだな。どーでもいいだろ?」
苦笑しながら、近くにあった丸椅子を引き寄せて、ベッドの脇に腰掛ける。その寛也に意外な言葉を吐く杳。
「でもオレ、最近、学校行くの、楽しいけど?」
何故と聞く寛也に、杳は笑っていて。
「ヒロ、いるだろ?」
サラリと放たれた言葉に、寛也は真実を知る。
体調が悪くてもずっと杳が学校に通っていた理由――ただ、寛也に会いたかっただけ。
それだけ。
もしかしたら、自分の身体のことを薄々気づいていたのかも知れない。だからこそ、尚更――。
「そうだな、俺も…」
言いかけて、うつむく。胸に込み上げてくるものを抑えきれなくて、膝の上に乗せた拳に力を入れる。
何故分からなかったのかと思う。こんなにも寄せられていた想いに。