第3章
魔手
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寛也は二人を見送って、呆然とした。
一体何が起こっているのか把握しきれない。ただ、杳の状態が良くないと言うことだけは分かったが、命が危ないなどといきなり言われて、動揺するばかりだった。
「何日も持たないって…どういうことだ?」
何故そんなことになるのだろうか。いや、気づかなかった自分も馬鹿だったのかも知れない。
思い起こせば、ずっと体育の授業も休んでいて、とうとう復活しなかったらしいこと。以前のように、生意気で元気な口調も次第に影を潜めるようになっていったこと。そして何よりも、痩せて、顔色も日差しの濃さに反比例するかのように白くなっていったこと。幾らでも思い当たった。
自分が一番側にいた筈なのに、肝心なことを何も気づいてやれなかったのだ。自責の念が押し寄せる。
「バカか…俺は」
いつも言われていたのは、杳にだった。その通りだと思って、苦笑しか浮かばなかった。
「あら」
ふと声がして、寛也は反射的に振り返った。そこに見覚えのある杳の母親が立っていた。両手一杯に荷物を抱えているのは、杳の入院用のものだろうか。
「結崎くん…だったわよね。お見舞いに来てくれたの?」
「え…あ…はい」
軽やかに浮かべる笑顔は、とても一人息子が死にかけているとは思っていないようだった。
「ありがとう。中、入って」
言いながらドアに手をかけて、ちらりと「面会謝絶」の札に目を向ける。
「あらまあ。こんなことになっちゃって。しょうがないんだから、あの子は」
ぶつぶつ文句を言う。その言葉に、寛也は何故か笑いが漏れた。
* * *