第3章
魔手
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 早退理由は潤也がでっち上げた。兄弟二人が同時に帰宅する理由で最も効果があるもの。

「単身赴任している父が危篤なんです」

 父さんゴメンと心の中で呟きながらの迫真の演技で、潤也はそれを難無くやり遂げた。

 それから自宅へ帰って、自転車にまたがった。

 竜体になった方が断然早いのは分かっていたが、竜の姿は普通の人間には見えないだろうが、転身する所を見られるのはさすがにまずかった。そんな理由で、兄弟揃って自転車をこぐことになったのだ。

 市民病院まで20分程度だ。

 そのくらいの時間は丁度良かったのだと、病院に着いてから知った。

 寛也と潤也が到着する少し前に処置が終わったらしく、杳は病室に移ったばかりだった。そう教えてくれた翔は、病室の前でぽつんと、杳の母が来るのを待っていた。

 病室の入り口には杳の名前とともに、面会謝絶の札が掲げられていた。その文字に眉を寄せる寛也。

「悪いの?」

 潤也が単刀直入に聞く言葉を耳にして、寛也はギョッとする。単に体調が良くないだけだと思っていたのだ。

 その寛也にちらりと視線を向けてから、潤也を見上げる翔。

「ここのところ、毎日学校帰りに点滴に通っていたんです。食事ができなくて、食べてもすぐに吐いてしまってました。暑さの所為もあるんですけど、かなり無理もしていて…」

 そう言えば昨日も、帰りに寄るところがあると言っていたのを潤也は思い出す。

「学校、休んでいいって、いくら言っても聞かなくて。出席日数が足りなくなるからって、毎日通学していたんです」

 入学した時、ぼんやり聞いたことがある。中学までの義務教育と違って、高校は成績が一定以上なければ進級できない。そのことに加えて、授業日数の3分の2以上の出席を要すると。

 そんなに休むものかと思っていたが、杳はそれを数えながら登校しているらしいとの専らの噂だった。寛也がざっと数えても、確かに今学期は3分の2あるかないかしか出席していない筈だ。だがこれも年間の出席日数の筈なので、今がこのくらいであれば、この先、いくらでも挽回できる。

 それが分からない筈もないのに、杳は何を考えていたのだろうか。


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