第3章
魔手
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 救急車で運ばれることとなったのは、学校から少し離れたところにある市民病院だった。

 付き添いには翔が呼び出されて、同乗した。それを潤也と二人で見送った。

「ヒロも行ったら?」

 潤也は、救急車のサイレンの音に授業が中断した隙に、授業を抜け出してきたのだ。

 彼は杳のその有り様に眉をしかめただけで、多くを尋ねることはしなかったが、表情は強ばっていた。その横顔に、最近では珍しく動揺しているのだと寛也は知る。

 かく言う自分も杳の容体がかなり異常だと気づいて、倒れていた佐藤を取り敢えずたたき起こして、救急車と、家族である翔を呼び出した。

 後はもう何をするべきなのか、分からなかった。

 苦しんでいる杳に何をしてやればいいのか分からなくて、ただ、抱き締めていた。

「でも俺は…」

 今、何となくしっくりいっていない。杳は寛也のことを避けているようでもあったし。杳の気持ちが分からなかった。

「何言ってんの。僕も行くよ。術が効くかどうか分からないけどね」

 言って潤也は、寛也の腕を取って教員室へ向かおうとする。早退届を出しておく方が後のことを気にしなくて済むし、その後に病院へ向かっても遅くはないだろうと考えて。

 すると振り返ったそこに、真紀が立っていた。

「あ…あの…私…そんなつもりじゃなくて…」

 泣きじゃくった跡があった。それ以上に、怖がっているのが分かった。

 潤也は寛也を見やる。寛也は一度こぶしを握り締めてから、スッと力を抜く。

「相沢が悪いわけじゃねぇよ。俺も杳も、そんなこと分かってるから、もう忘れろ」

 それだけ言って寛也は真紀の横を通り過ぎる。化け物に取り付かれただけの、言わば彼女も被害者だ。分かってはいるのだが、それでも真紀を振り向くことはできなかった。

 そんな寛也を、ため息をつきながら見やって、潤也は真紀の前に立つ。

「君が思い悩むことはないよ。ヒロももう少しちゃんと言えればいいんだけど。ゴメンね」

 うつむく真紀の額に、潤也はそっと手を伸ばす。

「いくら記憶を操作しても、心だけは変えられないんだけど」

 呟くように言って、潤也の白く柔らかな気の流れが真紀を包んだ。

「明日の朝には気持ちも晴れるから、今日は早く帰って、早く寝るといいよ」

 言われて真紀は素直にうなずいて、くるりと背を向ける。そのまま何ごともなかったように、体育館の方へ向かった。

「本当に、難しいよね」

 言って、潤也は寛也の後を追いかけた。





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