第3章
魔手
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「あんたの狙いは、この勾玉か? 残念だけど、あんたらみたいな小者に渡す訳にはいかない」
杳の言葉に、蝸牛の目が大きく見開かれる。
「その子の身体から離れろよ。オレが封じてやるから」
言いながら杳は、自分の身体が重くなっていくのを感じていた。多分立ち上がることはできなと思っていたが、上体を起こしておくことすら辛くなってきた。が、そんなことを面になんて出したら、一気にやられる。
杳は片手で身体を支えながら、片手で胸を押さえたまま、相手を睨む。
「ふふ。できるならやってみれば? その前に葵くんに死んでもらうから」
笑いながらそう言う真紀。杳に近づいて、今度は自分の手を伸ばす。
「だって君が悪いのよ。結崎くんの気持ち知ってて、都合のいい時だけ利用してるなんて」
言われて、杳は息を飲む。
絡み付いてくる真紀の手に、もう抵抗することを止めた。
「ずるいわよね。はっきり言えばいいのに。結崎くんのことなんて何とも思ってないって。そうしたら結崎くんも楽になれるのに」
杳は小さく首を振る。
「ちがう…」
胸の痛みが一気に増したような気がした。呼吸が苦しくなる。首の苦しみよりも、もっと痛かった。意識が飛びそうになるのを感じて、このまま楽になってもいいかと、ふと思った。
あの日以来、ずっと身体が辛くて、今ではもうバイクに乗ることも危なくてできなかった。学校帰りに病院へ寄って、点滴を打って、それでも一向に良くならなくて、もう限界かもと、このところ良く思うのだ。いっそ楽な道を選んだ方がいいのかもと。
だけど。
どんなに辛くても毎日学校に来ているのは、その理由は――。
多分もう、思いは告げられないけれど、告げてはいけないけれど、それでも会いたかった。側にいたかった。それだけの為に――。
杳は消え入りそうになる意識を手繰り寄せ、小さく呪文を呟いた。はるかなる昔、生まれるよりもずっと昔、竜の宮の巫女であった少女の持っていたもの。あの少女の祈りは、まだ自分の中にある。