第3章
魔手
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寛也の姿を見送って、真紀は握りこぶしする。その背に、静かに現れるものは、寛也の気配の消えたことを確認してから、スッとまた消えた。
真紀は無表情のまま、方向を変える。
保健室の方へ。
保健室の中には佐藤がいた。真紀が入って来ると、読んでいた雑誌から顔を上げて聞いてきた。
「どうした? お前も気分が悪くなったか?」
立ち上がり、歩み寄ってくる。
「すみません。少し休ませてください」
真紀の言葉に、佐藤は少し考えてから答える。
「先客が男子だが、奴なら大丈夫か。間違っても女の子を襲ったりはするまい。襲われることはあっても」
本人が起きていたらかなり怒らせただろう言葉を平然と吐いて、佐藤は隣の休養室のドアを開けた。中はベッドが二つあり、カーテンで仕切られている。窓側には杳が寝ているので、反対側のベッドを指さして言う。
「そっちを使うといい。えーっと、クラスと名前を先に…」
聞こうとした時、真紀の背からヌッと伸びてきたものがあった。
「!?」
佐藤は驚いて一瞬動けなくなった。その出現してきたものは、ぬめぬめとした軟体動物の触手のようなもので、首に纏わり付いてきて、ぐいっと締め付けた。
「先生こそお疲れでしょ? 少し休んでいてください」
そう言ってクスクス笑う真紀の背に、突然何かが飛んできた。何事かとびっくりして振り返ると、床に洗面器が転がっていた。
「何をしている?」
カーテンを開けて、杳が起き上がっていた。真紀の背後にあったものが、佐藤を手放してスッと姿を隠してしまう。佐藤は、そのまま気を失って床に転がった。
真紀はそれに目もくれず、杳の方を向き直る。
「具合はどう? 葵くん」
にっこり笑ってみせる真紀を、杳は睨み据えたままだった。
「あんた、何者だ?」
問うた相手は真紀の背後にいる物だったが、代わりに真紀が答える。
「2Cの相沢真紀。結崎寛也くんの彼女候補よ」
杳はそこで思い出した。相手が昨日の放課後、寛也と一緒にいた子だと。それが何故こんな異形の物を背負っているのか。