第3章
魔手
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 しかし杳が竜である筈もなく、やはり勾玉なのだろう。その気配から翔が結論づけるのを聞いて、何となく納得していたのだったが。

 と、寛也は近くに何かの気配を感じて立ち止まった。

「…何だ?」

 左右鳳凰の配下の気配に、寛也は疎かった。何がどれなのか分からないが、それでも人と違うものの気配だけは区別がつく。

「誰だ?」

 物陰に隠れているのが分かった。きつい口調での誰何に、脅えたようにそこから女生徒が一人、姿を現した。

「あの…結崎くん…」

 見覚えのある顔に寛也は驚く。それは昨日の相沢真紀だった。

「何やってんだ、お前…」

 その時、既に先ほどの気配はどこかへ消えていた。何だったのだろうかと思うよりも前に、この目の前の女生徒が何故ここにいるのかが疑問だった。

「だって結崎くん…葵くんに優しくするから、みんな、怪しいって…」

 その言葉に思わず赤面する寛也の内面は、一目瞭然だった。

「んなこと言ってる場合じゃねぇだろ。あいつ、倒れたんだぞ」
「だからって結崎くんが抱き抱えることないじゃない。先生に任せておけばいいことでしょ?」

 真紀の言葉はもっともなのだ。しかし、どこかが違う気がするのは、自分の中にあるものの所為なのか。

「お前には関係ねぇだろ」

 思わず出て来た言葉は低く、そっけなかった。寛也はそのまま真紀の脇を擦り抜ける。

 本当に、誰にも邪魔されたくなかった。杳との関係がとても大切で、そっとしておいて欲しかった。それだけだった。


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