第3章
魔手
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 廊下に出て、妙な気配に気づいた。明かに、人の気配以外のものだ。

 一般には内緒にしているが、この学校には竜が3体いる。人の姿で生まれ、人として生きているが、その本性は天を舞う巨大な竜である。

 一人は杳の従弟の葵翔。一族の長兄で、竜王の名をいただく最大の実力者。

 もう一人は寛也の双子の弟の結崎潤也。竜神の中でも強大な力を持つとされる四天王のリーダーの風竜だ。

 そしてもう一人は自分。同じく四天王の一人で、その中でも随一の力を誇ると聞かされている炎竜。

 その3人がいる校内に、最近不穏な気配を感じるようになっていた。翔の話ではかつて封印した、自分達よりはるかに強大な力を持つ巨竜の配下が、その復活を狙って出現し始めているのではないかとのことだった。

 寛也自身よく覚えていないことではあるが、その巨竜を封印したのが勾玉で、その勾玉は5つに分かたれて現存しているらしかった。そのうちの一つを、過日、訳あって破壊したのだが、それが直接的なきっかけになっているのだと翔は言う。

 それを覚悟の上で破壊したので、異形の物達の出現は予想されていた。が、その標的になったのが杳だったのは、自分達の予想外とするところだった。

 破壊され、宙に溶けたと思われた勾玉は、その実体を失って、今、杳の身体の中にあった。翔の言うには、勾玉本来の役割であるところの、人を守っている――杳を守っているのだとのことだった。その勾玉を狙って、連中は杳を襲ってきた。

 何故杳に勾玉が取り付いてしまったのか。破壊された時に最も近くにいた人間だったからだろうか。理由は翔も潤也も分からないと言うのだが。

 寛也には、杳の中にあって杳を守っているものが、何故か勾玉には見えなかった。勾玉と言うよりも、もっと小さな丸い玉だ。大きさで言うならピンポン玉くらいで、薄く透き通ったガラス玉のようにも見えた。黄玉であった勾玉に似ていないこともなかったが、もっと違うものに見えた。

 それは、むしろ竜玉そのもののように――。


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