第3章
魔手
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 次の日は朝から、昨日に増して厳しい暑さになった。

「もう、いい加減勘弁して欲しいよなぁ」

 体育館は猛暑だった。寛也はシャツのボタンを2つ外して、持参したウチワをフル回転させる。椅子にふんぞりかえってだれている姿は、どこかの中年にも見えた。

 昨日より椅子の配置を多少広めに取っているが、この体育館の中の温度自体が高いのでは何ともしようがなかった。青春真っ盛りの高校生集団の熱気は、半端ではないと言うことだった。

 授業が始まっても空席が目立つのは、自主的に休暇を取らざるを得ない生徒もいるということだろう。出席している生徒にしても、具合の悪そうな者もちらほら見える。

 夏休みの開始発表は近いかも知れない。

 そう言えば杳も辛そうだった。もしかしたら休みかも知れないと思って、何げに見回して、その姿を見つけた。

「うそ…」

 さすがに人混みは避けたようだが、ちゃんと座っていた。良くなったのだろうと少し安心して、寛也は教科書に目を落とす。

 その時。

「すみません。保健室、行ってもいいですか?」

 律義に手を挙げてそう言ったのは杳だった。まだ1時間目である。壇上の教師は不審そうにしながらも、許可を出さない訳にもいかなかった。

 杳はペコリと小さく頭を下げて、脇から外へ出る。寛也のすぐ側を通るが、気づかない様子だった。その横顔に表情はなかった。それなのに、しゃんと歩いていた。どっちなんだろうかと考えた時、背後でざわめきが起こった。

 振り返ってギョッとする。杳が倒れているのが目に入ったのだ。

 すぐに、体育館の後ろで補助者として控えていた教師が駆け寄ってくるのが見えた。それよりも寛也の方が早かった。寛也は杳に駆け寄り、抱き起こした。

「おい、大丈夫か?」
「ゴメン…大丈夫。歩けるから…」


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