第3章
魔手
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「何やってんの、潤也?」
いきなり背後から声をかけられて、潤也は跳び上がりそうになった。
「は…杳?」
そこに、カバンを抱えて帰り支度をした杳が立っていた。
「い、今から帰るのかい?」
それとなく、今自分が見ていた光景を杳の視線から隠す。体育館裏にいる寛也と女子の姿を。
「うん。潤也はこんな所で何やってたの?」
「あーうん、ちょっと休憩を…」
「あれ、ヒロじゃない?」
ヒョイッと潤也の脇から覗き込む。まずいと思って、杳の肩を掴む。何とか気を逸らせようと、無駄な努力。
「あ、あのさ。杳、宿題あるだろ? 見てあげようか?」
「いいよ。帰りに寄る所、あるから。それより――」
また覗こうとする。
「だったら、明日の予習とか…」
「だから、いらないって」
しつこい潤也の手を振り払って、見やった寛也達。
「あ。あれ、ラブレター」
杳がさらりと言った。えっと思って、潤也も振り返る。そこに、手を出そうとする寛也の姿があった。
「ふーん。今日はなかなか顔を見せないと思ったら、そういうことか。…良かった」
呟いて、杳はくるりと背を向ける。
「え? 良かったって…いいのかい?」
校門へ向かって歩きだした杳を追いかける潤也。
「うん」
うなずいて、杳は潤也を振り返る。
「潤也も彼女くらい作ればいいのに。潤也なら、その気になれば簡単だろ?」
「…あ、いや、それは…」
しどろもどろになる潤也に、杳は笑顔を向ける。
「じゃあね、潤也」
校門まで着く前にあいさつをされて、潤也は立ち止まざるを得なかった。自分はまだ帰り支度をしていない。
軽く手を挙げて去る杳は、一歩ずつ踏み締めるように歩いていた。寛也のことをああ言ったが、もしかしたらショックなのではと思ってしまう。
「…て、あれ? 杳はバイク通じゃなかったっけ?」
まあ、たまにはあるだろうと、潤也はやり過ごした。
この時、寛也の様子を最後まで見なかったことも、杳の様子が変だったことも気づかなかった。
* * *