第3章
魔手
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取り敢えず面倒なことは先に済ませてしまえと、寛也はホームルームが終わると早々に指定の場所へ向かった。
最近ではすっかり大人しくなっているのだが、それでも佐渡のことが気になった。後から顔を覗かせよう。杳に顔を会わせずらいので、そう口実を作る。
体育館の裏は、西日がさんさんと当たっていた。先ほどのナントカと言う女生徒は先に来ているものと思ったが、まだだった。ホームルームが長引いているのか。
「ま、いいか」
一応、言われた通り来ることは来た。時間の指定はしていなかったので、すれ違っても仕方ないことだと自分に言い聞かせて、回れ右をする。そして校舎へ向かおうとして、そちらから全速力で駆けてくる女生徒の姿が目に入った。
さっきの子だと気づいて、寛也は立ち止まる。
「ごめん、ごめんね。ホームルーム、長引いちゃって。委員長ったら嫌がらせのように話が長いんだもの」
C組の委員長は潤也だ。もしかして何か知っているのか。この短時間で、情報を得たのだろうかと勘ぐってしまう。
「んで、俺に何の用だよ?」
寛也は単刀直入に聞く。相沢真紀は、いきなり聞かれてかなり焦った様子だった。それもそうだろう、思っていたよりも約束に遅れ、息を切らせて全速力だったのだ。心の準備も何もなかったようだ。
言葉を無くしてしまった真紀に、寛也は眉の根を寄せる。
「特に急ぎじゃねぇんなら、俺…」
「結崎くん、彼女、いるの?」
帰ると言おうとした寸前、聞かれた。ああ、小早川の言った通りだと思った。が、そのようなことを、初対面に近い相手に言う気はさらさらなかった。
「…関係ねぇだろ」
「いないんだったら、私と付き合ってください」
ストレートだった。寛也は余りの直球に口をパクパクさせてしまった。その寛也の様子に、これはいけると思ったのか、真紀は一歩詰め寄る。
「あの…良かったらこの手紙、読んでください。返事はそれからでも構わないから」
言って差し出す一通の封筒。ファンシーな女の子らしい封筒の表面には、丸くて小さい文字で『結崎くんへ』と書かれていた。
これはもしかしてもしかすると、ラブレターと言うものだろうか。中学の時、潤也が何度かもらっているのを見たことはあるが、本当に自分に宛てたものだろうか。