第3章
魔手
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「結崎くん、話があるんだけど」

 午後の授業は、選択科目だった。美術を2時間ぶっ通しでする。

 芸術の授業はクラスを3等分して、3クラス合同となるので、潤也のクラスメートも混ざる。潤也は音楽を選択しているので、一緒になることはなかったが。

 授業が終わって、ショートホームルームの為に教室移動をしようとした所で、そう声をかけられた。

「俺?」

 知らない女子だった。知らないと言えば失礼だが、週1回の合同クラスでは覚えるのも無理だと寛也は決めつけていて、最初から覚える気がなかったのは事実である。

「ホームルームが終わったら、会って…くれない?」

 肩を少し過ぎる程の長さの髪を、左右でゴムで留めただけの、目立たない大人しそうな子だった。

「体育館の裏で待ってるから」
「は?」

 いきなり言われて、寛也はキョトンとする。

 寛也の最近の習慣は、放課後は取り敢えずK組の佐渡が悪さをしていないかのチェックと、杳を無事にバイクに乗せて帰らせることだった。時間があれば潤也から頼まれた買い出しに付き合ってもらうこともある。たったこれだけでも結構楽しいものだった。

 が、寛也は昼間のことをふと思い出して、杳に会わせる顔がないと思った。多分杳は寛也の内面に気づいていたのだ。それでも尚、信頼を寄せてくれていた。それなのに――。

「じゃ、後でね」

 そのまま女生徒は元気良く駆けて行った。寛也の返事も聞かずに。

「何だ、あれ…」
「C組の相沢真紀だろ」

 ひょいっと顔を出したのは、小早川だった。背後から忍び寄って来た彼に、寛也は飛び上がる。

「お前、どっから…」
「割と可愛いけどな。どうする?」
「何が?」
「まーたまた、しらばっくれて。ありゃ、まずもって告白。お前、球技大会以来、女子の人気急上昇中だからな」

 全く、こいつはこういう情報ばかり集めているのかと呆れる。

「知らねぇよ、そんなこと」


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