第3章
魔手
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 慌てて寛也は丸飲みしてしまう。ぐいぐいっとジュースで飲み込んで、一息つく。

「オレなんて何もできないし、みんなと一緒にいた時だってお荷物扱いされてたし、役に立たないって分かってたけどね。それでもヒロは…」
「役に立っただろ。新堂を…地竜王を封じたのはお前じゃねぇか。俺なんか、一撃でやられたんだぜ。お前がいてくれて良かったと思ってるんだ」

 本当に、人間の力はすごいと思った。紗和を封じたこともそうだが、翔がすっかり戦意を喪失したのは杳の為だと思う。はるかなる昔、巫女である少女をなくした悲しみが癒えたとは思えないが、それでもあの場まで出向いて行った杳の存在は大きかったのではないだろうか。

 その証拠に、翔は色々と寛也の邪魔をしてくれる。

「やっぱりヒロ、優しいよね」

 杳が何故突然こんなことを言い出したのか分からなかった。が、杳の素直な言葉に、おもはがゆい気持ちより、否定する気持ちの方が強かった。

 実際のところ、杳を守るのだって好きだと言う気持ちが裏にあるからで、その気持ちの奥に潜むのは、今朝見た夢のようなものなのだ。

 全くの善意でもなければ、無償のものでもない。少なくとも守ってやると言う約束の元に、杳は寛也に信頼を寄せているのだから。杳が思っている程、奇麗なものではなかった。

 そう思われているのが、今はひどく苦痛に思えた。

「違うよ、杳」

 寛也は飲んでしまったジュースのパックを片手で潰す。

「俺だってあの佐渡と差して変わらねぇんだよ」
「え?」

 振り返る杳の顔をまともに見れない。

「見返りも何も期待してねぇ訳じゃねぇよ。お前のこと…あんな姿、見ちまって…すげぇやりてえって思って…それなのに、俺のこと信じきってチョロチョロ寄ってきて…俺はお前が思ってるような聖人なんかじゃねぇんだよ。腹の中、黒くて、汚くて……」
「ヒロッ」

 寛也の言葉を遮る。

「もういい。そんな風に言わなくてもいいから。やめて」

 杳の声はひどく優しかった。罵倒されて平手打ちされた方がよっぽどスッキリしたのにと、思ってしまったくらいだった。

 顔を上げられない寛也に、杳が立ち上がる気配がした。

「おにぎり、ありがとう。後でちゃんと食べる。それから…」

 しばらく間が開いて、言おうかどうしようか迷っているのが伝わってきた。

「オレ、それでもヒロのこと信じる。でもそれが苦痛になってきたら、裏切ってもらっていいよ。オレ、ヒロにだったら…」

 砂ぼこりを含んだ風が、ゆるやかに流れていく。その風に混じって、杳のため息が聞こえた。

「もう行く。じゃあね」

 それだけ言い残して、杳の足音が遠ざかっていく。

 振り返って見た後ろ姿が、ひどく頼りなさそうに見えた。


   * * *



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