第3章
魔手
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「あち〜ぃぃ」
炎を得意とする炎竜である筈の寛也が何を言うかと潤也に叱責されるのだが、暑いものは暑かった。
寛也は昼休みが始まると早々に体育館を飛び出して、購買でパンとおにぎりを買い込むと、木陰へと逃げ込んだ。
建物の外は暑いだろうと言われるが、それでも風が吹けば体感温度は下がるので、外の方がかえって涼しい時もある。が、そんなものも所詮、焼け石に水だったが。
寛也は校庭の見渡せる階段に腰掛けて、なるべく木陰に寄り添って、おにぎりの包装をパリパリと剥いていく。
「相変わらず良く食べるね」
含み笑いの漏れる柔らかな声に、ドキリとする。ちらりと見上げると、杳が立っていた。そして、当然のように寛也の隣に腰を降ろしてくる。
「案外、涼しいよね、ここ。体育の授業、見学する時に丁度いいんだ」
まだ見学しているのかと、寛也は初めて知った。
5月にかなりの深手を負った杳は、神の力を持つと言われる竜王の手で傷を治癒された。が、その後余り体調が思わしくなかったらしく、しばらく学校を休んでいた。その後も、何度か倒れたりしたが、それも直後だけの話で、今ではすっかり良くなっているものと思い込んでいた。
そう言えば、先月の球技大会も見学していたと、思い出す。
「もうメシ、食ったのか?」
「ううん。食欲ないから」
「食えよ。食いたくなくても、無理やりにでも詰め込んでおけ。じゃねぇとバテるぞ」
寛也は購買で買い込んだものの中からおにぎり1個と、お茶パックを取り出して、杳の手に握らせる。
杳はそれを少し眺めてから、寛也に返そうとする。
「ゴメン、ホントに要らないから」
「お前な、そんなだから、ひょろっこいんだ。少しでもいいから食っとけ。倒れる前にな」
言って寛也はガツガツかぶりつく。
「分かった。ありがと」
杳はそう言いながらも、おにぎりは食べる気がしないのか、お茶パックだけ開けた。本当に食べたくないのだと分かる。
「パンの方が良いか?」
まだ袋の中にはサンドイッチと菓子パンがあったが、杳は首を振る。
「これでいいよ」
手の中でコロコロと転がされる三角おにぎり。
「ヒロはいつも優しいよね。オレ、面倒ばっかりかけてるのに」
突然の殊勝な言葉に、寛也はビニールを開いたばかりのサンドイッチを取り落としそうになった。
「な、何だよ、いきなりっ」