第3章
魔手
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久しぶりの晴天に、短かった梅雨の明けたことを知る。なるべく長くもって欲しいと思っていたのは、全校生徒共通の意見だったのではないだろうか。
梅雨の間は、勿論蒸し暑くてかなわなかったが、梅雨が明ければ外気が30度を超える。その中での体育館での学年集中授業がどれ程の熱気を持つのか、想像ができた。
2年生だけではない。同じような格技場を使っている1年生にしても、温室状態のプレハブ校舎を使っている3年生にしても、状況は大差ない。
新しい校舎が完成するのは夏休みの終盤だと聞いているので、期末考査を夏休み開けに繰り延べして、夏休みの開始を早めるだろうと、専らの噂だった。
「ま、全部ヒロの所為だけどね」
「うっせぇ。半分は紫竜の姉ちゃんの所為だ。…名前、なんて言ったっけ?」
もう、どうでも良かった。
朝からうだるような暑さの体育館に、寛也はうっかり弟と並んで座ってしまい、後悔していた。
「最近、すごい人気だよね」
ふと、潤也が後方の席を振り返りながら、寛也に同意を求めてきた。見やると、暑苦しいのに固まって座っている一団があった。
その中心は多分、列の一番隅っこに座っている杳。隅っこなのに、明かにそこを中心に固まっているが分かる。
「あいつ、何であんな所に座ってんだ?」
元々、杳は余り人に近づきたがらない。好んで人込みに行くこともしないのに。
「違うよ。杳の周りに人が群がってんだよ」
そう言えばファンクラブが幾つかあるって言ってたような気がする。
杳は周囲に話しかけられて、少し困ったようにしながらも、時折、わずかに笑みを浮かべる。自分にだけ向けられているものではないのだと知って、もやもやした気分になる。
「呼んでこようか? もう授業が始まるから、今ならこの辺り、開いているからあそこよりは涼しいしね」
潤也の言う意味に、少し首を傾げて答える寛也。
「いいんじゃねぇの。来たけりゃ、自分から来るだろ」
言って、寛也は前を向く。
今朝の夢を思い出してしまった。今、杳に側に寄られたら、授業どころではなくなる。いや、授業なんて構わないが、耐えるのはかなり辛かった。
「素直じゃないよね」
「何のことだ?」
「別に」
言って、潤也も前を向く。
こうやって兄弟で並んで授業を受けるのもあとわずかだ。新学期になれば、別々のクラスである。
クラス替えをしても、兄弟での同じクラスは一番に避けられるので、これまで一度だって同じクラスになったことはなかったから。
* * *