第2章
使者
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グラウンドの整備を全員でして、通常ならば大会は終了となる。が、今日だけはみんな残っていた。
杳はぼんやり空を見上げる。夕立でもあれば中止になるかなと思って。
「よお、お待たせ」
と、声をかけられた。振り返ると、しっかり服まで制服に着替えている双子の片割れが立っていた。
ああそうかと思った。潤也にしてみれば、寛也に変装すると言うことは、ここまでスタイルを落とすことなのだと納得してしまった。それと同時に、はめられたことに気づいた。
「潤也はどうしたんだよ?」
「は?」
「それで『ヒロに変装した潤也のフリ』しているつもりなの? ヒロ」
言われた方は唖然としてしまった。そっくりに、変装したつもりだったのだ。どこでばれたのが気づかない様子の寛也に、杳は本気で呆れる。
「言わなかったっけ? オレ、ヒロと潤也のオーラが見えるって。全然違うんだよ」
寛也は聞かされてまたも唖然とする。そう言えばそんなことも言っていたような気がする。潤也は知っていたのだろうか。見回して、遠くの隅っこに潤也の姿を見つけた。にっこり笑って手を振っていた。
「もしかしてヒロも、はめられたクチ?」
「杳は俺とするのが嫌なんだから、ジュンのフリしてればいいって言いやがって、こんなややこしいことに…」
「バカじゃない?」
その通りだと思った。返す言葉もない。
と、辺りからキスコールが沸き起こった。面白がっているのかどうなのか、二人の立つ体育台の周りはすっかり取り囲まれていた。多分、これは逃げられない。
「まずい…よな?」
ここへ来て寛也もさすがに人前だと言うことを意識し始めた。そして、もっとよく考えて気づいたことは、自分はこれがファーストキスだと言うことだった。
が、キスコールは大きくなるばかりだった。
「な、杳。これは何かの罰ゲームか?」
「知る訳ないだろ」
怒っているのが丸分かりの口調だった。このままだと絶対にぶたれる。かと言って、しない訳にもいかない状況だった。
寛也はガシガシ頭を掻いてから、大声を出した。
「うるせぇなっ、少し静まれよっ!」
すると、水を打ったようにしんとしてしまい、ますます冷や汗の寛也だった。しかし静かな方が気持ちを落ち着けるには良かった。
寛也は、憮然としたままの杳の方を向く。その頬に両手を添えて、首をすくめる杳に、少し身を屈めて顔を近づける。