第2章
使者
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 かなり接戦になると思っていたが、蓋を開けてみたら大差だった。

「お前、やる気あるのかっ?」

 バッティングは棒立ち、投げさせればボールばかりで途中降板してしまった佐渡を、寛也は試合終了の整列の後、捕まえて怒鳴った。その寛也を押しのけて、佐渡は面倒そうに返す。

「あるわけねぇだろ。今更勝っても、杳は俺のものにならねぇんだ」

 杳が好きなのは、この目の前にいる奴で、しかも大したナイトときている。いくら白馬に乗って現れても、すぐ身近の騎士に心奪われているプリンセスにとっては、赤毛の騎士が一番なのだから。

「ま、学年中のさらし物になって、キスでも何でもしてろよ。じっくり見物させてもらうからよ。逃げ出されて恥でもかかねぇように気をつけるんだな」
「うっせーな。俺はお前の悪巧みを阻止しただけだ。それ以上は何もねぇ」
「はい、はいはいはい。二人とも、そこまで」

 熱くなりかけた二人の間に割って入ってきたのは、潤也だった。まるっきり実行委員の顔をしていた。

「何だよ、ジュン。邪魔してんじゃねぇよ。こいつ、俺との決着、逃げやがって…」
「決着はもうついていたんじゃないの?」

 ねっと、潤也が佐渡の方を振り向くと、あからさまに顔を背けてきた。まだ寛也は合点がいかない様子だった。

「どういうことだ?」
「いいから。MVPのヒロは、ちょーっと身だしなみを整えて来ようね」

 そう言う潤也に、腕を掴まれた。そして体育館の方へ向かう。多分更衣室だろうと思うが、何故なのか分からなかった。

 ずるずると引きずられるようにして歩く寛也に道を開けてくれる周囲の生徒達。その生徒の間の道を抜けた先で、寛也は立ち止まった。そこに、思いがけない人物が立っていたので。

「杳…」

 不満そうな表情はそのままで、じっと寛也を見つめていた。

「何で帰ってきたんだよ? お前、嫌なんだろ?」
「やだよ。だけどヒロ、オレがいなくなったら恥かくだろ」
「構わねぇよ、そんなの」
「いつものことだしね」

 一言多いと、潤也を睨む。

「いいよ、どうオレのキスなんて安いもんだし」

 安くない、安くないとあちこちで囁いている声が聞こえた。

「どちらにしても、歯磨きくらいしてよね。弁当食べたままだだろ?」

 当たっています、歯磨きしていませんと、寛也はうなだれる。その格好のまま潤也に引っ張られて行った。杳の姿をずっと目で追いながら。


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