第2章
使者
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「見つけた」

 そっと声をかけられ、杳は驚いて振り向く。そこに、潤也が立っていた。

「どーして…?」

 絶対に見つからない場所だと思っていたのだ。スポーツセンターから国道を挟んだ反対側に、山林がある。オリエンテーリングができるように整備されているが、今日は使っていないので、誰も立ち入らない筈だった。

「僕ね、こういうのは得意なんだよ」

 言って、潤也はにっこり笑顔を浮かべた。

 本当は杳の持つ勾玉の気配を追ってきたのだとは言わず、座り込んでいる杳の隣に同じように腰を下ろした。

「ここからグラウンド、よく見えるね」

 遠目ではあるが、試合の行方は十分に分かる。逃げ隠れしておきながらこっそり見ているなんて、やはり気になるのだろう。

「あーあ。ソフトじゃなくて、バスケでのMVPにしておけば良かったかな」

 潤也がのんびりと伸びをしながら言うのを、杳は振り返る。

「だって優勝チームは僕のクラスだし、得点王は僕だよ」

 竜として覚醒する前には考えられないことだった。身体が軽くて、動きやすくて、気持ち良かった。

「そうだね。オレ、潤也とだったら…」

 ポツリと言う杳に、潤也の方が慌ててしまった。

「え…僕だったらいいの?」
「うん」

 膝を抱える杳は、グラウンドに目を移す。

 だけどそれは有り得ないことだと思う。寛也が駄目で自分が良いと言うのは無いと思っていた。

「杳、ヒロのこと好きだろ?」

 言うと、驚いた顔がまた振り返る。思わず苦笑を浮かべて。

「分かるよ、それくらい。杳を見てるとね」
「…ヒロには言わないでよ」
「どうして? ちゃんと伝えればいいのに」

 杳も薄々は寛也の気持ちが分かっているだろうに。

 杳は膝を引き寄せ、小さく抱え込む。

「ヒロとは、まだ今のままでいたいから…」

 今のままで十分良い感じだなどと、余計なことは言わなかった。

「だからヒロとだけはキスも嫌ってことだね?」

 うなずく杳の頭に手を置いて、くしゃりとする。

「仕方ない」

 言って、潤也は立ち上がった。

「僕が変装してヒロと入れ替わってあげるよ」
「えーっ?」

 ビックリした声を上げる杳に、ウインクひとつして返す。

「僕なら平気なんだよね? 心配しなくても、僕達は双子だから、バレないよ。ただ、ヒロのスタイルにまで落とすには、相当の勇気がいるけどね」

 言って杳の手を取る。まだ浮かない表情のままの杳は、渋々立ち上がった。


   * * *



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