第2章
使者
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「安心しろよ。お前のクラスを破って優勝するの、A組だぜ。MVPは俺に決まりだから」
「何ばか言ってんの?」
「お前が頼んできたんだろ? 俺に勝てって。頑張ってんだぜ」

 次は既に決勝戦だった。目の前で試合をしているうちの、大差で勝っているK組とである。

「だって壇上でって言ってたよ。みんなの前って…」
「いいじゃん、気にしなきゃ」
「気にするだろっ」

 言って、背を向ける。

「オレ、ヤだ」

 それだけ言って、駆けて行ってしまった。慌てて追いかけようとして、試合終了の笛の音が聞こえて寛也は思わず立ち止まる。

 時間が押しているので、そのまますぐに決勝戦が開始される予定だった。


   * * *


「葵の姿が見当たらないってよ」

 試合も終盤に差しかかった頃、チームメイトが言った。途端、ベンチ内がざわつく。

「何で? 誰かばらしたのか?」
「ばれるだろう、普通…」

 他に聞こえないように、ボソリと呟く寛也。

「俺、杳ちゃんのチュー、ホントは欲しかったんだけど…」
「そんな事いってると、チューより平手が飛んで来るぞ」

 また、独り言。

「取り敢えず、大会実行委員が総出で捜してるらしいぞ」
「大会公認かよ…」

 ボソボソ言っている寛也に、周囲がふと気づく。

「そう言えば、試合前に結崎と話してたの、あれ、葵じゃなかったか?」

 言われて、顔を上げると、全員が一斉に振り向いていて、慌てる寛也。

「いや、ちょっとだけ話しただけで…」

 不審そうなみんなの顔に、寛也はため息をついて白状する。

「嫌だって言って、逃げられた。もう、ここにはいねぇんじゃねぇかな」
「何で止めなかった!?」

 口々に言われ、寛也は声のトーンを下げる。

「仕方ねぇだろ。嫌がってるものを、無理やりしても気分悪いだけじゃねぇか」

 あーあと、ベンチ中にため息があふれた。

「ま、どっちにしても、俺は勝つからな。条件抜きで約束しちまったからな」

 言って寛也は立ち上がる。グラウンドでスリーアウトの声が聞こえて、チェンジだった。

 グラブを手に、寛也は一番に駆け出した。


   * * *



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