第2章
使者
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「何考え込んでるの?」
今日はスポーツ大会。晴れ渡った空の下、芝生に座ってぼんやりと他チームの試合を眺めていると、後ろから頭をはたかれた。見上げると、杳がいつもの澄ました顔で立っていた。
「あ…いや…別に…」
慌てて寛也は立ち上がった。
先日の夜の、ホテルのスイートルームでの出来事が頭から離れないでいた。飛び込んだ自分の目の前にあった姿に、真実の程が知りたくてたまらなかったのだが、本人にはとても聞けず、ますます悩むばかりだった。
あの時、佐渡にどこまでされてしまったのか、なんて。
杳は次の日にはもうケロリとした様子で登校していた。気持ちが悪いと言って吐いていたようなので、無理やり眠らせたと翔が言っていた。そう言う翔こそ、何かの薬の影響か、翌日一日は具合悪そうだった。
そして、元凶である2Kの委員長と言えば、寛也が壊したドアの修理費に、簡単に父親のゴールドカードを切っていた。一体どこの坊ちゃんなのか。
その日以来、杳にちょっかいを出すことはなくなったらしいが、諦めていないだろうことだけは、寛也の目には見えていた。
佐渡は、同じ目をしているのだと思った。自分と同じ目で、杳を見ているのだと。
「ね、ヒロ、知ってた? 学校の裏サイトで話題になってたらしいんだけど、ソフトで優勝したチームのMVPに、翔くんのキスが贈られるんだって」
「はあ?」
思わず転んでしまいそうな内容に、寛也は辛うじて踏ん張った。が、返したのはひどく間が抜けていた声でだった。
「すごいよね。この前は誘拐されちゃうし、今度は賞品だよ。翔くん、大人気だよね。可愛いし、当たり前なんだけど。それにしても1年、今日は授業なのに、来るのかなぁ」
「待て、待て、杳」
杳の言葉を遮る寛也。色々な意味で、こいつ、間違っていると思った。
「よーく考えてみろ。何で2年の球技大会に、わざわざ1年の大将が出てくるんだ?」
「えっ、違うの? だって葵って名字、他には…」
「お前、葵だろ?」
言うと、キョトンとする杳。
「オレ…?」
寛也がうなずくと、すごく嫌そうな顔をした。途端に、マシンガンだった。
「オレ、そんなこと全然聞いてないよ。どーいうこと? もしかしてヒロ、知ってたんだ? だったら何で黙って放置しとくのさ? 人を何だと思ってんの? あーもう、こんなんだったら、今日、来るんじゃなかった。って言うか、何でオレ?」
無自覚なのは怖いと思った。寛也への八つ当たりを止めない杳に、寛也はその肩をポンと叩く。