第2章
使者
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ドンドンドンドンッ。
激しくドアをたたく音がした。
舌打ちする佐渡。
「何だよ、いいところなのに」
「杳、杳、いるなら返事しろっ!」
ドアの外からの声に佐渡はギョッとする。慌てて杳の口を塞ぐが、杳はその手に思いっきり噛み付いた。
「いてえっっ」
佐渡が思わず手を放した隙に叫ぶ杳。
「ヒロッ、助けてっ」
その杳の頬を叩く。
「黙ってろ。あんな奴、追い返してやる」
言って佐渡はベッドサイドの電話の受話器を取ろうとする。ホテルの警備員を呼ぼうとしたのだが、しかし、その前に佐渡は受話器を持ったまま、呆然とすることになる。
鍵をきっちり閉めて、チェーンまでしていたドアは、突然の爆発音とともにドア枠から外れ、内側にバタリと倒れ込んできた。
「な…っ!?」
何が起きたのか分からないままの佐渡の目に、爆発の粉塵が次第に晴れて、ドアの向こうに立っている人影が見えた。
「ヒロッ」
杳が身じろぎするのを押さえ付けて、佐渡は相手を見やった。そこに立つ寛也は、ぺっぺと埃を吐き出すようにしながら、部屋の中へ入ってきて、二人の姿に眉を吊り上げる。
「今日のところは、お開きのようだな」
佐渡は呟いて、杳の上から身体を避ける。ベッドから立ち上がると同時に、いつの間に駆け寄ったのか、寛也に胸倉を掴まれていた。
「貴様、杳に何をしたっ!?」
佐渡としてはまだ何もしていないに等しいが、この目の前で血走った目を向ける寛也に、からかいの言葉ひとつもお見舞いしなければ、気がおさまらなかった。
「見ての通りだ。お前も無粋なことを…」
最後まで言わせてもらえなかった。右ストレートがまともに決まり、佐渡はそのまま後方にあったサイドボードごと倒れた。
それを見届けてから、寛也は杳に視線を移す。バスローブが半分以上脱げていて、泣きそうな目で寛也を見上げてくる。
「悪かった、遅くなって」
「ヒロ…」
寛也の服を握りしめてくる手に力が入って、胸に顔を埋めてきた。
「信じてた…絶対、来てくれるって…」
「杳…」
まだ少し震えている身体を強く抱き締めた。その存在が何よりもいとおしく思えた。