第2章
使者
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ふと名を呼ばれた気がして、寛也は振り返った。が、そこに人がいる筈もなく、首を傾げただけで終わらせた。
杳を捜して夜の闇を駆けたが、ようやく見つけたバイクは放置されたままで、持ち主の姿は近辺には見当たらなかった。
「大事なバイク、ほったらかして、どこ行ったんだ?」
辺りを見回して、人の気配のないことを感じる。
いや、何かいる――そう感じたのは、自分の五感ではなく、竜体の方の気の力だった。
いぶかしむ。こんなところに、一体何が潜んでいると言うのだろうか。ここは港近くの倉庫街である。昼間はともかく、こんな時間に。怪しみながら寛也は気配のする方へ歩いていく。
倉庫のひとつの扉が開いていて、覗くと中はがらんとしていた。ほぼ空の倉庫だった。そこに今まであった筈の気が消え失せていた。
「?」
この失せ方、どこかで感じたことがあると思った寛也の目の端に、人の足が見えた。
「杳っ」
思わず駆け寄りかけて、それがロープで縛られて伸びている翔だと途中で気づいて、立ち止まる。
寛也は辺りの気配が他にないことをもう一度確認して、慎重に近づいた。
翔は手も足もぐるぐる巻きにされ、さるぐつわまでされて、放置されていた。寛也はその扱いの雑さに呆れながら、取り敢えずつま先で翔の腹の辺りを蹴ってみた。
「おい、起きろ」
わずかに身じろぎして、翔は薄目を開けた。が、すぐに目を閉じてしまう。何か薬でもかがされているのだろうか。仕方なく寛也は翔を抱え起こして、頬を三発程張ってみた。
「ん…」
余り力を入れるつもりはなかったが、つい力が入ってしまった。そのお陰なのか、翔はようやくに目を覚ました。
「いたい…」
第一声が、恨み言だった。
「こんな所でなに寝てんだ?」
仕方なくロープを解いてやった。高二男子の必需品のジャックナイフを使って。
「ここ、どこですか?」
翔は軽く頭を振りながら聞く。まだぼんやりしていて、視界がはっきりしないのか、何度も瞬きを繰り返す。
「港近くの倉庫だ。この近くに杳のバイクが乗り捨てられてたけど、お前、知らねぇ?」
「杳兄さんの…?」
翔ははっきりしない頭を抱えて、少し考えて、ハッとする。
「あいつは?」
辺りを見回す。