第2章
使者
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バスルームのドアを閉めて、杳はその場にくず折れた。
胸の奥から込み上げてくる気持ち悪さと、身体の震えは止まらなかった。
「何で…」
人に触れるのも触れられるのも、昔から余り好きではなかった。それでも成長してからは、その嫌悪感も少なくなってきた筈だったが。
とにかくこんな無様な姿を佐渡になど見せたくなかった。こんなに、足も立たなくなっているなんて。
杳は一度深呼吸をして、気を落ち付けようとする。
――あんな奴なんかに…。
このまま動けなくなったら、好きにされるだけだ。そんなことは絶対に嫌だった。何とか隙をみて逃げ出すか、反撃するか。やるなら倍返し。
そんなことを思ってみるのに、ぞわぞわと思い出す感触。首筋に伝う生暖かい舌。のしかかる体重の重み。絡み付いてくる指の感触。
気分の悪さに、目眩がしてきた。身体を支える力まで失ってしまいそうで、床に両手をつく。冷たい床に、一瞬意識がはっきりするが、それもわずかな時間だった。
朦朧としてくる意識に、杳は小さく呟く。
「…ヒロ…」
そのまま身体の力が抜けていった。
* * *