第2章
使者
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佐渡は杳の身体を引き寄せる。簡単にその身を腕の中に取り込んで言う。
「お前が俺の言うことを聞くなら、その物騒な坊やを無事に返してやってもいいんだぜ」
「何を…」
「妙な術を使う…あんな化け物、眠ったままコンクリート詰めして海に沈めてやってもいいんだぜ」
そう言う佐渡の顔を驚いて見上げる。その杳に佐渡は不敵に笑う。
「お前の気持ち次第だ。大切なんだよな、イトコが」
含み笑いの佐渡から、杳は顔を逸らす。
「翔くんは無事に返してくれる?」
「ああ」
佐渡は杳の顎に手を添えて、上を向かせる。夜目にも赤く艶やかな唇。自分を見上げてくる瞳が、そっと閉じられる。その唇に、自分の唇を重ねた。
「ん…」
すぐに、反射的に逃げようとする杳の身体と首を押さえ付けて、深く口付ける。苦しそうに唇を開く中へ、舌を滑り込ませ、口中をむさぼる。きつく吸い上げては、舌を絡めていく。
甘い口づけには程遠いそれに、杳は身体の力が抜けて行くのを止められなかった。佐渡の腕の中、次第に強くなる恐怖心に、杳はゆっくり意識を手放した。
ぐったりして気を失った杳を抱きとめて、佐渡は口元を歪ませる。
「可愛いもんだ。キスくらいで気を失うなんてな」
呟いて、杳を抱き上げる。そして、陰に潜んでいたものに声をかけた。
「車を出してくれ。こんな所で杳を抱きたくねぇからな」
三つの影のうち、ひとつが外へ向かう佐渡について行った。残りの二人は翔の見張りの為に残して。
* * *