第2章
使者
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「オレ、もう帰るよ」

 カバンを抱えた杳が、キッチンで夕食を作っている潤也に声をかけた。

「翔くん、つかまったの?」
「ん。今日はもう遅いから来ないって」
「そうなの?」

 何かあったのだろうか。翔のことだから、何があっても大丈夫だろうが、連絡が何もなかったと言うのが気になった。

「帰るから、ヒロによろしく言っておいて」
「えっ? 声をかければいいのに」

 寛也は自分の部屋にいるのに。が、杳はヒラヒラ手を振って。

「メンドーだし」

 寛也が聞いたら何と言うだろうか。かわいそうにと、潤也は多少同情をしてしまう。

「じゃあねー」

 言って杳はそのまま玄関から出て行ってしまった。相変わらず、そっけなかった。

 潤也は肩をすぼめてそれを見送る。

 外の駐輪場でバイクの音がするのを耳にしながら、夕飯の支度を続けていると、寛也が部屋から出てきた。

「おい。杳、どっか行ったのか?」

 潤也は振り向きもせず、答える。

「帰ったよ。翔くん、もう今日は来ないんだって」
「帰ったって…」

 寛也はしばらく沈黙して。

「でもアイツ、家とは反対の方向へ走ってったぞ」
「えっ?」

 今度は潤也も振り返る。寛也が慌てて外へ飛び出していくところで、潤也もコンロの火を止めて追いかけた。

 が、そこには既に杳の姿もバイクもなかった。

「何か…言ってなかったか?」

 寛也が振り向く。

「何かって…ヒロによろしくって。声をかけるの、面倒だからって」
「ばかか」


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