第2章
使者
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 港の倉庫は、今朝荷を送り出したばかりなので、中は広いがらんどうだった。また2ー3日後には新しい荷が運び込まれ、次の船を待つことになる。

 佐渡は父親が借りているその倉庫に、眠らせた翔をかつぎ込んだ。

「このガキ…大丈夫ですか?」

 黒いスーツにネクタイ姿の、一見サラリーマン風にも見える男が、翔をコンクリートの床の上に置いてから、佐渡を振り返った。

 倉庫の中には、同じような格好をした男が他に二人いた。

「大丈夫だ。こうやって眠らせておけば、ただのガキだ」

 佐渡はそう言って、翔を見下ろした。

 何が目的で声をかけてきたのか知らないが、先日の教室での一件を忘れてはいなかった。

 人ならざる力を発動させて、自分を狙った。その力は、危うく避けた自分を通り越し、教室の壁にめり込んだ程のものだった。何なのか知れないが、普通の人間にできる技とも思えなかった。その少年が取り澄ました顔で近づいてくれば、何かあると思わずにはいられなかった。

 コンクリートに詰めて海に沈めてしまおうかとも思ったが、そんなことをすれば杳が悲しむのではと、チラリと思ってしまい、始末に困ってしまった。

「ま、いい。こいつの正体も見極めたいし、調べてみるか」

 呟いて、ふと、佐渡の目に翔のポケットで光っているものが見えた。

「携帯?」

 マナーモードにしているのだろう、音は鳴らないが、暗い倉庫の中ではよく光っていた。

 何げなく手に取って、そこに表示された名に、ニヤリと笑う。

 ――杳。

 そのまま通話ボタンを押した。途端、飛び込んでくる杳の声。

『あ、翔くん? 何やってんだよ、ずっと待ってるのに』

 少し機嫌が悪いような口調。

「杳」

 名を呼ぶと、言葉が途切れ、不審そうな声が返ってくる。

『誰?』
「お前の大事なイトコは預かっている。返して欲しければ、これから言う場所に来い」
『あんた、委員長…?』

 ふざけた物言いに、身元がすぐにばれる。しかも、相変わらず名前で呼んでくれない。

『冗談言ってないで、翔くん出せよ』
「冗談じゃねぇよ。ホントに預かってる。お前ひとりで迎えに来い。無事に返して欲しかったらな」

 電話の向こうの杳の戸惑った顔が目に浮かぶ。しかし、すぐに返事はあった。

『どこだよ?』

 くくくと、喉の奥から笑いが込み上げる。ひょうたんから駒とは、このことを言うのか。

 佐渡は杳にこの場所を教えて携帯電話を切った。

 ついでに、翔のメモリから杳の電話番号とメールアドレスをコピーした。

「待ってるぜ、杳。たっぷり可愛がってやるからな」

 呟いて、翔を見下ろした。


   * * *



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