第2章
使者
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「翔くん、遅いなぁ」

 窓の外が暗くなっていくのを見やって、杳がポツリと呟く。

「もう明日の予習まで済ませたのにぃ…」

 翔から、話があるから先に寛也の家で待っていてと言われていた。待っている間、潤也から勉強を見てあげると笑顔で言われ、逃げそびれてしまった。ちなみに寛也は杳を生け贄にしたまま逃げ出して、自分の部屋でゲーム中である。

「そうだね、ちょっと遅いみたいだね」

 時刻は8時を回っていた。いくら何でも遅すぎるだろう。

「ね、何の話? 昨日の続き?」
「そう…だと思うけど」

 昨日の話――佐渡の記憶操作――の結果報告と、今後の動きを話し合いたかったのだろうと、潤也は踏んでいた。

「もういいや。オレ、帰る」
「えっ? ちょっと杳」

 言うが早いか、杳はテーブルの上に取り散らかした教科書やノートをごっそりとひとまとめにして、カバンの中に詰め込んだ。

「待ってろって言われたのなら、待ってなよ。きっと翔くん、何かの都合で遅くなってるだけだから」

 潤也が止めようとするのを制して、ふと、杳がカバンの中から取り出すもの。

「…忘れてた…」

 携帯電話だった。

「持ってたっけ?」
「ん。あの後、オレと翔くん、持たされた。行方不明になっても、すぐに捕まるようにって。全然使わないから、忘れてた」

 けろりと言って、杳はそれでも慣れた手つきでボタンを押していた。

「心配してるんだね…」

 自分達の戦いに巻き込んでしまって、結果、杳は10日間の家出状態だった。途中一度だけ家へ帰らせたが、その夜のうちに、また飛び出してきてしまった。

 翔はともかく、杳に関しては最初に巻き込んだのは自分なので、潤也はそれなりに責任も感じていた。

「潤也達も持てばいいのに。そしたらいつでも連絡取れるよ」
「そうだね」

 当たり障りのない返事を返しておく。今のところ、潤也も寛也も不自由していないので考えていなかった。

「あ、翔くん?」

 しばらくコール音を聞いていた杳は、ようやく出た相手にいつもの口調だった。

「何やってんだよ? ずっと待ってるのに」

 潤也はその間に夕飯の準備をしようと、立ち上がってキッチンへ向かった。


   * * *



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