第2章
使者
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「んで、どっから聞いてた?」
翌日、たまには後ろの方の席が良いと主張すると、潤也は渋々一人で前の席へ行ってしまった。杳は潤也と寛也を見比べてから、たまには潤也と二人でいようと言って追いかけようとするので、その首根っこを捕まえた。
不承不承、寛也の隣に座る杳に、腕組みをしてまず聞いた。
「どこからって…?」
「昨日の話だ。お前、狸寝入りしてただろう」
「やっぱりバレてた?」
杳はペロリと舌を出してから、とんでもないことを言う。
「全部、聞いてた」
「は?」
あの時、翔は杳に睡眠の術をかけたのではなかっただろうか。それが効いていなかったと言うのか。
「何か気分が悪くなって、身体の力が抜けたけど、眠くはならなかった」
「それで寝たフリかましてたのかよ?」
「その方が都合が良かったんじゃないの?」
さらりと言ってから、杳は真面目に勉強するつもりなのか、教科書を取り出す。
「マズイよね。オレ、殺されるのかな?」
そんな言葉をまるで冗談のように言う。事の重大さを分かっているのだろうか。そう思って見やると、笑顔を向けてくる。
「でも、心配してないから。だってヒロ、守ってくれるよね?」
当たり前のこんな関係にいつの間にかなっていて、少し照れてしまう。
「俺じゃなくったって、翔もジュンもいるからな」
照れ隠しに言う言葉も、さらりとかわされる。
「でも、ヒロがいるから」
多分それは、覚醒してから、側にいた時間が一番長いから。そう言い返そうとして、先に言われた言葉。
「ヒロの側にいるとね、すごく安心できるんだよ」
これまで何度か言われたことがある。その言葉の持つ意味を、本当はもう気づいている。自分が思っていると同じように、杳も寛也のことを思っていてくれるのだと。
「期待、外すかも知れねぇぞ」
「大丈夫。オレ、信じてるから」
殺し文句だった。初めて会った時にも、こんなことを言われた気がする。
ここが体育館じゃなかったら、今が授業中じゃなかったら、周囲にいる同級生がせめてこの百分の一くらいだったら、即座にに抱き締めて、キスをして、告白していた筈だった。それを寛也はぐっと押さえ込む。
代わりに、杳の手を握ってみて、触るなと言って叩かれた。
コメディのような状況に、寛也は泣きそうになった。
* * *