第2章
使者
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「この勾玉は実体をなくしたまま、杳兄さんを守っているんです」
言って、翔はそっと杳の手を下に降ろす。
手を放すと、杳を取り巻いていた勾玉の気は、何事もなかったように消え失せた。その勾玉ごと。
「何で…こんなこと、あるの?」
潤也は信じられないと思いながらも、目の当たりにしたものを理解しようと様々なことを考えている様子で、問う言葉は少なかった。
「ヒロ兄、余り驚きませんね」
翔が、寛也を振り返って聞く。知っていて黙っていたのだろうと、責めるような目付きだった。
「いや…驚いてるけど…」
「ま、いいでしょう」
言って、今度は潤也を見る。
「どういうことだと思いますか?」
聞かれて潤也はしばらく考えて。
「黄玉だよね、これは」
「恐らく」
「じゃあ黄玉が杳を守っているのだとしたら、勾玉本来の力は失われていないってことだよね? 勾玉は元々、綺羅を守る為に作られたお守りだから」
言ってちらりと寛也を見やる。
「何だ?」
「別に」
短く答えてから、すぐに翔に向き直る。
「それで、この勾玉をどうにかしたいの?」
寛也はそう言う潤也の口調に、機嫌が悪くなったことを知る。元々、薄皮を被っていただけなのだろうが、ちょっと引いてしまう。
「どうにもできませんよ。杳兄さんに取り憑いているようなものですから。どうも引き剥がせないみたいです」
翔は潤也の口調の変化を気にすることもなく、眠らせている杳の手にそっと触れる。もう、銀色の気を波立たせることはしなかった。
「それよりも、この前、杳兄さんを襲った異形のモノ、覚えていますよね? あいつの正体、分かりました」
翔は小さく呼吸をする。