第2章
使者
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「時間がもったいないので、本題からいかせてもらいます」

 結崎家を訪れた翔は、飲み物でも出すと言って立とうとする潤也を制した。馴れ合いになるつもりはないことは元々分かっているのか、潤也はそのまま従う。

 その一方で、杳はすっかり自宅気分だった。勝手に冷蔵庫から飲み物を出して飲んでいた。

「杳兄さん…」

 先日の試験勉強の合宿の時に買い込んだ自分専用のコップを使っている杳に、翔は目眩を覚えた。何故ここに置いたままにしているのかと。

 飲んだコップをそのまま流し台に置いて、翔が睨んでいることに気づいたらしく、杳は急いでキッチンの隣の和室にやってきて、ちょこんと座った。

「オレいないと、話、進まない?」

 翔達の作戦会議と聞いて、自分は耳を貸す程度だと思っていたのだろう。逆に不審そうな表情を浮かべた。

 その杳に翔が近づいて。

「杳兄さん、ちょっとゴメンね」

 言って翔は杳の額に手を伸ばす。

「えっ?」

 指先からフワリと何かが滲み出たように見えた瞬間、杳はその場に崩れた。

 意識を失った杳を、翔は上手に抱きとめて、畳の上に横たえる。

「おい、何を…」

 近寄ろうとする寛也を制する潤也。

 その間に翔は杳の手を取る。

「見ててください」

 翔の周りで、銀色の柔らかな気が沸き上がる。

 その気が、握った手を伝ってゆっくりと杳に流れ込むように見えた。やんわりと、杳の身体を包み込む銀色の気。

 と、杳の眉が寄せられたかと思うと、それを拒絶するかのように杳の身の内から別の気が膨らんだ。

「な…に…?」

 薄い肌色をした、わずかなものだった。寛也は、これをどこかで見たような気がした。

 どこでだったろうかと思い出そうとするが、その目に見えた別のものに注意を奪われた。

 杳の胸に淡く広がる気の中心に、ぼんやりと浮かび上がって見える実体のない塊。それは、あの時、体育用具室で化け物に襲われた時に、杳が手にしていたものだと気づいた。

「勾玉…」

 呟く寛也に、翔は振り返りもしなかった。


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