第2章
使者
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寛也は自分一人だけ教員室に呼ばれたことを知って、憮然とする。
「センセ、ケンカ両成敗って知ってる?」
「お前が先に理由もなく殴りかかっていったと、複数の証言があったぞ」
その通りだと思うものの、理由がない訳ではない。周囲だって知っている者は多いだろうに。
「結崎のことだから、訳もなく殴りかかったりはせんだろうがな」
一年の時からの担任だった鎌田は、それでも寛也の良いところ悪いところを知ってくれていた。それならば余計に分かってくれても良いものを。
「今回のことは、合同授業をやっている学校側の管理不行き届きの面もあるからな。大目にみてやることにした」
ほっと胸を撫で下ろす。こんなことで停学にでもなったら大事である。
「だが、次はないからな」
「ありがとー、センセ」
言って寛也が立ち上がるのを、鎌田は肩を掴んでもう一度座り直させる。
「お前の殴った相手、K組の佐渡だろ?」
声をひそめて聞く鎌田に、寛也は今更何を言うのかと聞き返す。
「悪いことは言わん。あいつは相手にしない方がいい」
「…何でさ?」
「表向きはスポーツ万能のサッカー部エースで、成績もお前の弟とタイを張る程の優等生だ。だがな、裏では…」
「知ってるよ」
寛也は教師の言葉を遮る。
「だからって、許せねぇことは許せねぇ。センセには悪ィが、俺、アイツと決着つけるから」
「結崎っ」
言って立ち上がる寛也に、鎌田はため息を漏らす。この正義感の塊のような少年の熱い血は何とも誇らしいのだが、余りにも危なっかしくて仕方がない。
「じゃあ、言っておく。いくら校内でのことであっても、殴り合いは暴力行為だ。ましてや校外でのこととなると、学校もかばいきれん。やるなら、上手にやれ」
「センセ、そんなこと言っていいのかよぉ?」
ちょっと呆れて、それから、強気に笑う。
「大丈夫だよ。俺達、完全無欠の治療薬、持ってるから」
「は?」
そう言う寛也の、今朝殴られただろう傷は、見当たらなくて、鎌田は奇妙な違和感に襲われた。
* * *