第2章
使者
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それだけですべて受け入れてしまう自分も、大概、単純だと思った。
「お疲れさん」
担任が姿を消したかと思うと、次の奴が絡んできた。誰だと思って面倒そうに振り返ると、小早川だった。
「お前、カッコ良かったぞー」
寛也の頭をガシガシ掴んで言う小早川に、寛也は鬱陶しそうにその手を払った。
「んな訳ねぇだろ。俺の方が1回多く殴られたんだし」
「そーじゃなくってさ」
小早川は寛也の椅子の背に腕を乗せて、身を乗り出す。
「な、葵」
隣の杳に声をかける。
顔見知りでも何でもない小早川に声をかけられて、杳は不審そうな表情で振り返る。
「良かったな」
思いがけない言葉だったのだろう、杳は驚いたように瞬きをする。
「新手の苛めだって話もあったし。どっちにしても当分は誰の嫌がらせもないだろうから、安心できるよな」
「…うん」
ニッと笑って見せる小早川に、杳はわずかに笑む。
杳は無自覚なのだろうが、ここまで奇麗な顔でほほ笑まれると、相手が同性だと分かっていても、ポッとなるものらしかった。
寛也は目ざとくそれに気づいて、慌てて小早川を杳から引きはがす。
「そろそろ授業、始まるぞ。席に帰れよ」
「いや、俺、ここに座っていようかなぁ」
「戻れって」
寛也は小早川の首根っこを捕まえると、無理やり立ち上がらせる。これ以上ライバルを増やしてなるものかと、本気で思った。
何のことかと首を傾げる杳と、その向こうでくすくす笑っている潤也が、何とも憎らしかった。
* * *