第2章
使者
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「別に、頼まれてやってんじゃねぇよ。俺がしたいからしてんだ。こいつ、許せねぇから」
「もうっ、ばかじゃない」
それでも杳は、立ち上がる寛也に手を貸す。
それから、背後でぶつぶつ文句を言っている潤也と、黙って立ち上がる佐渡の気配に振り返った。
「あんたも、こんなバカに付き合って喧嘩してんじゃないよ。委員長だろ?」
「関係ねぇよ」
佐渡は寛也に殴られて、目元が次第に赤く腫れ始めていた。
「こいつ、いねぇ所で決着つけようぜ」
「な…っ?」
杳の背後から、寛也が佐渡に向かって言う。
佐渡はそれを鼻で笑って返した。
「本気か?」
言外に、相手にならないと含ませて。が、寛也はやる気満々だった。制服の埃を払っている潤也に声をかける。
「ジュン、ジャッジやれよ」
「ヒロが負けたら二番手行っていいならね」
「負けるかよ」
短く言葉を交わす双子に、佐渡は付け加える。
「こっちも判定員を出させてもらう。いいな?」
異論なんてないので、寛也と潤也はうなずいた。
「バカばっかり…」
杳は隣で聞いていて、すっかり呆れてしまった。
「何をやってる!?」
そこへ、騒ぎを聞き付けてやってきた教師の声が聞こえた。寛也は慌ててカバンを拾って、杳の腕を掴む。
「それまでこいつに何かしやがったら、承知しねぇからな」
佐渡の方も、自分の顔の状態から騒ぎの中心だと知られるのが嫌なのか、逃げ出す態勢だった。
「ああ。その代わり、日時と場所はこっちで決めさせてもらう」
「分かった」
急いでそれだけ言葉を交わして、教師達の来る方向とは反対側の人垣をくぐった。
その顔の痣を見れば一目瞭然なのにと、杳に耳打ちして、潤也も笑いながら続いた。
* * *