第2章
使者
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「誰だ?」
寛也が小声で聞く。
「K組の佐渡」
聞いた途端、寛也は相手を睨む。
こいつは、そう言えば見覚えがあった。杳が復学したばかりの頃に、最初に杳に声をかけてきた奴だ。
「杳、席決めた? 前の方でちゃんと授業を受ければ、もっと良く理解できると思うよ」
そう言って潤也は、寛也の手に捕まっていた杳を引き受ける。
「え? 何?」
そのまま潤也に引っ張って行かれる杳。
後に残る寛也を振り返ると、寛也が佐渡の胸倉を掴んで、そのまま殴り飛ばしたのが見えた。
「えっ?」
杳は驚いて戻ろうとするが、潤也は手を放してくれなかった。
その間に、寛也達の周囲に人垣ができる。
二人の姿は見えなくなるが、周囲の生徒の様子から、殴り合いに発展しているようだった。
「何で止めないの、潤也?」
「僕も殴り飛ばしてやりたいくらいだから」
「何で?」
「君がそれを聞くのかい?」
杳は潤也のその言葉に、クラスでのことを知られているのだと気づいた。あれだけ公然とやっていたら、噂が流れて当然なのだ。
杳はそれでも潤也の腕を振りほどく。
そして人垣をかき分け、寛也達の所まで分け入った。
「杳っ」
慌てて追いかける潤也。
寛也のやりたいようにさせるのを、原因となった本人に邪魔させたくなかった。同じように人垣を擦り抜けて、追いつく。
床に転がって殴り合っている二人に、躊躇している杳を、咄嗟に捕まえた。
その時、寛也が握りこぶしで佐渡を殴ろうとして。
「ヒロ、やめてっ」
人込みの騒音の中、杳の声を聞き分けて、寛也の動きが止まる。
次の瞬間、寛也は顔面を殴られて、よろけて後方に尻餅をついた。
その寛也に飛びかかって行こうとする佐渡に向かって、杳は潤也を突き飛ばした。不意をつかれた潤也は佐渡にぶつかり、二人はその場にもつれるようにして転がった。
ようやく収まった乱闘に、人垣はしんと静まり返った。
「オレ、こんなこと頼んだ覚え、ないよ」
今ので口の中が切れたのだろうか、寛也は唇を拭いながら身体を起こす。