第2章
使者
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「あそこで何の話をしていた?」
教室に入る前に杳をそう言って呼び止めたのは、佐渡亮だった。杳はそれを無視して教室に入ろうとするのを、その腕を掴んで引き戻された。
「俺に言えないことか?」
「関係ないだろ。あんたには」
佐渡の腕を振り払おうとするが、頑として放してくれなかった。
「痛いんだけど?」
杳は佐渡を睨みつける。が、彼はそんなことは気にも留めない。
「な、杳。いい加減、言うことを聞けよ」
「あんたの恋人になれって言うのは断った筈だ」
「可愛がってやるって言ってるのに」
「いらないよ、このヘンタイ」
言うと、佐渡は一瞬怖い顔をするが、すぐに鎮める。減らず口を叩くものの、その実、脅えた色を見せる瞳に気づいて。
「じゃ、どうしたら俺と付き合ってくれるんだ?」
口調を変える佐渡は、杳の腕を掴む力をゆるめながら、そっとその身を壁に押し付けてくる。
「付き合う気なんてないって言ってるだろ」
身を縮める杳に、佐渡はため息。
「じゃあ今度の球技大会、優勝したら俺と付き合え」
「はあ?」
突拍子もない提案に、杳は唖然とする。
「団体競技だよ。優勝してもあんた一人の功績でもないじゃん」
「勿論、俺が一人で投げて打つ」
そう言えば、こいつもソフトボールだったと思い出す。